#085 地域社会の活性化に貢献するイーグルバス(3)

谷島賢(イーグルバス株式会社・イーグルトラベル株式会社・イメディカ株式会社・株式会社イデア総合研究所の代表取締役社長)

地域や社会の発展と課題解決をめざして

以上、イーグルバスの5つの経営理念に合わせて、イーグルバスの取り組みを紹介したが、イーグルバスは、地域や社会に貢献するために、更なる取り組みを推進している。谷島社長は「地域に必要とされることをやることが究極の経営戦略ではないかと思います。まず地域がよくならなければ企業は絶対に成長できない」と言う。ここでは、谷島社長が取り組んでいる社会貢献活動を3つ紹介する。第一が「観光の振興」、第二が「過疎地の再生」、第三が「ノウハウの提供」である。

第一が「観光の振興」である。谷島社長は、「イーグルバスを発展させるためにも、川越を人が集まる魅力的な町にすることが重要である」と言う。谷島社長は、川越市の観光協会の理事も務め、川越に観光客を呼ぶ活動をしている。2011年には川越の「着物の日」の発起人になった。2011年の東日本大震災で、川越は春祭りを自粛したが、このままでは疲弊すると思い、「着物の日」を提唱したのである。毎月18日は着物の日であり、この日に着物を着ていると様々な特典がある。また、蔵の街をライトアップする小江戸川越ライトアップにも積極的にかかわった。

今、川越市は外国人観光客も呼び込もうとしている。谷島社長は、「英語の通じる街」実行委員会の会長にもなっている。実行委員会は「英語でニッポンを語ろう!コンテスト」を開き、予想以上の盛況となった。イーグルバスでは、また、運転手向けオリジナルの英語教材も作った。

イーグルバスの羽田?川越の路線バスは、外国人の観光客の増加に役立っているが、谷島社長は更に進めて、バスを使って地域同士を交流させることも考えている。例えば川越と京都を結ぶ高速バスを運行している。「小江戸」から「みやび」へという趣向である。京都のお菓子屋のおたべと提携し、イーグルバスのチケットを持っていくと生八つ橋を出してもらえるようにもした。谷島社長は、このように地域の「観光の振興」活動を積極的に推進している。

過疎地の再生

第二が「過疎地の再生」である。その一つとして、現在取り組んでいるのが、東秩父村におけるハブ停留所を利用した地域おこしである。東秩父村は、人口が3,000人足らず。高齢化率も38%と非常に高い、典型的な過疎の村である。全国ワースト20番目の消滅可能都市とされていた。しかし、一方で、東秩父村は初心者向けが充実したハイキングの人気スポットである。また、それ以外にも、和紙の里、ふれあい牧場、みかん園、フィッシングセンターなど、多くの観光スポットがある。これらを有効に使えないか。

そこで、谷島社長が目を付けたのが、和紙の里である。東秩父村は1,300年の伝統を持つ和紙作りの里であり、細川紙という紙を作っている。これは、2014年ユネスコの無形文化遺産に登録された。観光客はここで和紙作りの体験もできる。谷島社長は、村に対して、ときがわ町のハブ&スポークを進化させた小さな拠点構想を提案した。イーグルバスと村営バスを統合し、ハブ停留所を作って、移動を便利にする。これは観光客の利便性を高めるだけではない。この中継ポイントに、行政サービス、観光案内所、レストラン、直売所など、地域住民にとっても、観光客にとっても便利な施設を作れば、村の人の利便性に大きく貢献する。地元の人の雇用も生まれる。これを村と共同で進める一大プロジェクトにした。2016年10月には、和紙の里に、バスのハブセンター、JA(農協)農産物直売所、道の駅、飲食店などが集約された複合施設がオープンし、日本のモデルとなった。

谷島社長は、2011年に、関東運輸局から初代の「地域公共交通マイスター」に任命された。「地域公共交通マイスター」は、地域公共交通の利便性向上に実績・知識・熱意のある人が任命される。このマイスターには、各地域がこれらの諸課題に取り組む際に相談にのり、支援をする役割が期待されている。

ノウハウの提供

第三が「ノウハウの提供」である。イーグルバスが開発した、ITを使ったバス路線の再生のノウハウは、他のバス会社にも活用できるものである。谷島社長は、「バスの力で日本全国に活気を取り戻すため、同業他社に対して “見える化のコンサルティング ”を強化していきたい」と考えている。すでに北海道や山口県にある一部のバス会社や自治体に支援を始めた。2015年には、コンサルティング会社を設立し、これもまた新しい収益源にしていく考えである。

また、イーグルバスの “ノウハウの提供 ”は、日本国内にとどまらない。ラオス政府の依頼により、ラオスのバス運営の支援も始めた。JICA(国際協力機構)のプロジェクトに応募し、ラオスの国営バス公社にバス事業改善システムを納入した。ラオスにもハブのバスセンターをつくり、これらのハブを面的につなぐ。他の地域にもハブを作り、ラオスのバス運営の仕組みとして整える。バスの運行だけではなく、町づくりのノウハウも入れていきたい。今後は、他の東南アジア諸国も支援をしていくつもりである。

以上、①地域の観光の振興、②過疎地の再生、③グローバルなノウハウの提供など、谷島社長が取り組んでいる3つの課題を紹介した。これらの課題は、3つとも高齢化していく日本の課題解決のキーワードになるものである。そして、このようなイーグルバスの取り組みは、他の地域の課題解決のモデルともなり得るものである。谷島社長は、2015年11月21日開催の「ドラッカー学会 10周年 ものつくり大学大会」において、「地域を結ぶ 人を結ぶ 心を結ぶ」と題し、それまでのイーグルバスの取り組みを発表した。

地域を結ぶ、人を結ぶ、心を結ぶ

イーグルバスの事業の定義は「地域を結ぶ、人を結ぶ、心を結ぶ」である。単なるバス事業にとどまらず、地域を結び、人を結び、心を結ぶことにより、社会の課題解決に貢献する。現在、イーグルバスグループは、バス事業だけではなく、介護事業、観光事業、コンサルティング事業なども手掛けている。

谷島社長は次のように言う。「自社の利益だけを考えていてはダメ。我々のような公共交通事業者は、地域のために何ができるか、目を向けることが大切です。地域に貢献して、そこに人が集まり地域が活性化することで、ようやく我々の会社がよくなるのです。自分たちが勝ち組になるという意識を変えて、地域貢献をめざすことによって新しいビジネスチャンスも生まれると思います」。

まさに、その言葉通りに実践してきたイーグルバス、これからもドラッカーの考えを体現した5つの経営理念「創客」「革新」「社会貢献」「顧客第一」「信用」に基づいて、更なる活躍が期待される。

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