#009 学びの水門を開いてくれた人

香川光生(香川家畜診療所・獣医師)

 

現在、獣医師という職業柄、畜産農場の衛生指導や管理指導、疾病対策をしながら群馬県を中心に車で走り回りながら往診業務に従事しております。

日々の農場巡回をしていますと、家畜疾病以外にも多くの問題に直面することが多々あります。例えば畜舎設備の不備によって起こる暑さ寒さ飢えや渇き、また職場内の従業員同士や親子関係のトラブル、劣悪な労務環境の改善などなど、実際の現場で日々直面する現実の問題は思っているより、もっと複雑です。

これらの問題は医療現場で使用するワクチンや抗生物質で癒すことができません。ましてや今まで学んできた獣医学的見識のみで解決できる問題でもありません。残念ながら、目の前に横たわる諸問題に対して臨床獣医師として何の手立てもないことに、自らの非力を感じずにはいられないことがあります。

これらの問題に対しても、何とか対処できないだろうかと思い、いつしか獣医学以外の学問に対しても興味を持ち、少しずつ勉強の領域を広げていくようになりました。そんなときに出会ったのがドラッカーです。

最初は『もしドラ』(岩崎夏海氏)のDVDを見て、面白そうだなと思ったのがきっかけです。そこから少しずつドラッカー関連の本を読み重ねていくようになりました。学んだ知識を、畜産業界でも活用できないだろうかと考えるようになりました。

ドラッカーを読んだ方の多くが共通して感じるように、まるで自分のために書いてくれているような本だと感じました。不思議な感覚です。読んだどの本にも至極の言葉が散りばめてあり、感銘を受けたドラッカーの言葉を選べと言われてもどれを選んでいいか迷うばかりです。

仕事柄限られたかかわりの中で生活し、自らの価値観で構成された世界で仕事をしているので、ややもすると、それが全世界だと錯覚していたかもしれません。

自らの人生にかけた枷を外し、学びの水門を開いておく、そんな気持ちにさせるのは、ドラッカー思想が枝葉を大きく広げた巨木のように高くそびえ立っているのを目の当たりするからではないでしょうか。

  • ドラッカー学会 Drucker Workshop