#066 ドラッカーとの出会いによって仕事観が180度、転回した話

鮒谷周史(株式会社ことば未来研究所 代表取締役所長、ビジネスメルマガ『平成進化論』発行者)

 

ドラッカー全著作を時系列順に読んだら

「仕事に向き合う基本姿勢」を、ドラッカーは私に与えてくれました。

大学を卒業し、サラリーマンになり、しかしながら、いまだ「仕事とは何か」という問いに対する明確な答えを持たなかったときには当然、「何のために仕事をしているのか」も不明瞭でした。

それゆえ気持ちも入らず、正直、「生計を成り立たせるために仕方なく働くのが仕事」だと考えていました。

そんな情けない有り様の私でしたが、今から11年前、起業して数年が経ち、当時、幹事を務めていた勉強会において(ドラッカー著作のほとんどを翻訳なされ、日本におけるドラッカーの分身と言われる)上田惇生先生をお招きすることとなりました。

こうして上田先生のご講演を拝聴する機会を得たのですが、そこで先生がドラッカーについて情熱的に語られる姿と、その内容に心打たれ、さらに、何度か会食をご一緒させて頂くことでドラッカーに対する関心が大きくなっていきました。
そんなある日、上田先生をお囲みしての会食が終了した際の別れ際、先生に「私がもし一からドラッカーを学ぼうとしたら、どの本を読んだらいいですか?」とお尋ねしました。

数冊の推薦図書を頂ければ、くらいに思っていたのですが、そのときのご回答は「ドラッカー全著作を時系列順に読んだら良いですよ」という、予想の斜め上をいくものでした(汗)
ドラッカー全著作といっても莫大な分量があるのです・・・。

ただ、たまたまその時期は仕事が一段落していて、幸か不幸か(?)まとまった時間も取れたので、その言葉をきっかけとしてドラッカーエターナル版15冊、ならびにAmazonで手に入る、それ以外のドラッカー関連の論文集やら書簡やら、エッセンシャル版やらの書籍をすべて購入。

「仕事観」が180度、転換

エターナル版について、時間を見つけて、時系列順に読み進めて、およそ2年ほどかけて読了いたしました。(難解なところやイメージの湧きにくかったところは、かなりの速度で流し読みした部分もあることは告白しておきますが)

エターナル版はいずれも大部、かつ集中力が要求されるものでしたので、そこまでのエネルギーに乏しいときには『ドラッカー 365の金言』も赤ペン片手に繰り返し、何度も読みました。(最終的にはほぼ全ページに赤線が引かれることとなりました)

そんなことをしている間に、気づいたらビフォー・アフターで「仕事観」が180度、転換されていることに気付くこととなりました。

特に印象に残っているのが『マネジメント-課題、責任、実践』に記されている「あらゆる組織が社会、経済、人間に貢献するために存在する。当然、成果は組織の外部にある。それは社会、経済、顧客に対する成果として表れる。企業のあげる利益にしても、それをもたらすのは顧客である。」の言葉。

「成果は組織の外部にある」当たり前といえば当たり前の話ですね。

お客様に聞かない限り、分からない

でも、当時の私は、勤務先の突然の倒産、という悪夢も冷めやらぬ頃で、さらに起業して未だ数年、という時期でしたので、なにをさておいても、まずは己の食い扶持を稼がねば、としか考えていませんでした。

代価をお支払下さっている顧客のことなど、真面目に考えたこともなく「成果は内にある」と思っていたのが、今となっては恥ずかしい。

そんな私でしたが「成果は組織の外部にある」「一人ひとりの組織人が文明の担い手である」という仕事に対する捉え方をドラッカーに教えてもらい、以後、お客さまに向き合うにあたって、常にこの言葉を意識するようになりました。

それ以降、私は仕事を行った後には、必ずお客さまからの感想を頂戴するようになりました。毎日お届けしているメールマガジンについても、コンサルでも、セミナーでも、あるいはセミナー音源をお届けした際にも、それ以外のすべての機会において。

どれだけの成果を外部(顧客)に渡せているのかは、お客様に聞かない限り、分からないと思ったからです。さらに「5(大いに満足)ー3(普通)ー1(大きく不満)」みたいな定量評価にはあまり意味がないと思ったので(社交辞令で5とか4がほとんどになるに決まっているので)、嘘のつけない、出来る限り長文の自由記述の定性評価のみを求めることとしました。

メルマガの感想3000件、他の感想1000ページ

こうして気がついたら、メルマガの感想だけでも3000件以上(とても更新が追いつかず、5年前くらいの数字ですが)、コンサルの感想もPDFにまとめると700ページ以上、セミナー音源についてもすべて合わせると1000ページ以上、頂戴することとなりました。

こうして頂戴してきた無数のご感想こそが、私にとっての宝物であり、仕事履歴の証明であり、足跡であり、自信や誇りの源となっていますし、これだけの数が集まると、目指すべき理想の姿であるところの「顧客以上に顧客を理解している」状態を作り出すことにもつながっていくと考えています。

ただ、お客さま全員に対し、サービス提供後の感想を求めるのは、やってみれば分かりますが、実はとてつもなく大きなプレッシャーがかかるもの。なぜなら、ダメなサービスを提供していたら、容赦なく、その旨のフィードバックが襲い掛かってくるはずだから。正直怖いです、今も。

でも、そうした強制的な負荷が自らを背伸びさせ、成長を促すと固く信じているからこそ、恐怖を乗り越え、例外を設けることなく、都度、お客さまのご意見を伺ってきました。

ドラッカーに導かれて

こうした取り組みに例外規定を設けず、継続的に行おうと決めたのは、ひとえにドラッカーの「あらゆる組織が社会、経済、人間に貢献するために存在する。当然、成果は組織の外部にある。それは社会、経済、顧客に対する成果として表れる。企業のあげる利益にしても、それをもたらすのは顧客である。」の言葉によってでありました。

こうして、ある時期まで生気なく、ただただ、生活の糧を得るために仕方なく仕事をしていた私でしたが、ドラッカーとの出会いによってビジネスパーソンとしての正しく取るべき態度を示され、日々、充実感、充足感、満足感、高い自尊感情、やり甲斐に満たされながら仕事に取り組めるようになりました。

ほとんどの人は人生のかなりの時間(人によっては大半の時間)、仕事と向き合うこととなるわけですが、そんな仕事に寝食忘れて取り組めるのは本当に幸せなこと。

ひとえに今は亡きドラッカー教授に導かれ、出させてもらえた世界だと思っています。

 

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