#063 破壊的イノベーションへの期待
佐々木 英明(慶應義塾大学大学院経営管理研究科特別招聘教授、ドラッカー学会理事)
日本の新しいモノ作りのきっかけを
経済産業省ホームページに「シリコンバレーD-Labプロジェクトのレポート」(本レポート)が掲載された。これを読んでイノベーションの衝撃の大きさを再認識し、ドラッカーのことを考えた。
本レポートの論旨は次の通り。まずテレビ、携帯電話、オーディオの産業で、それぞれ隆盛を誇った日本の多くの企業が数年で撤退にまで追い込まれたことを指摘した後、自動車産業において今破壊的イノベーションが起こりつつあり、それが産業の未来を危うくすると指摘する一方、この変わり目を生かして、「日本の新しいモノ作りのきっかけを、シリコンバレーから」と提唱している。
モノ消費からコト消費への価値の転換が進み、今話題の、シェアリング・コネクテッド・電気自動車(EV)そして自動運転の4つのビッグトレンドが同時に起こっていることを破壊的イノベーションの前兆とみる。シェアリング:車の所有から移動サービス購入への価値転換、自家用車台数の半減、渋滞緩和と駐車スペースの解放; コネクテッド:車をスマホ化し、動くIT機器にしてしまう、EV:環境面の優位性だけでなく、部品数がエンジンに比べ圧倒的に少なく、車をコモディティ化し系列破壊、自動運転:事故減少と老人や子供への移動手段提供。
外に出て見て行動する
本レポートは、上記のように、これらのビッグトレンドが新たな価値を創造している点に焦点を当てている。「既存製品の主要顧客が重視する性能の強化が大きな意味を持たなくなり、新たな価値が重視される。新規参入者がほとんど常に勝利する」(関西学院大学 玉田俊平太教授)のコメントが日本にとって不気味な将来を示唆しているようにも思える。
こうした新規参入者の筆頭候補が、ウーバー、アマゾン、テスラなどのシリコンバレー企業であり、日本の企業の名はない。一方、日本の強みである製造技術や品質を活かして新たな企業との取引を展開すれば新たなチャンスがあると論じている。
翻ってドラッカー。イノベーションを生み出すための実践的なアプローチを展開した『イノベーションと企業家精神』を参照しても、やはり日本の自動車産業は破壊的イノベーションを主導できず敗者になるのかと危惧される。 一方「いやいやまだゲームの帰趨は先が見えない」との期待も抱く。本レポートが結んでいる(シリコンバレーに来て)、知って行動してとの提言はドラッカーの言う、外に出て見て行動することに通じている。是非この前兆をとらえチャンスに変えて欲しいと願うばかりである。