#059 宝塚歌劇団100年の歴史から学ぶ 人が輝き組織が活きる心と身体の磨き方(1)

堀内明日香

現在は、宝塚歌劇団卒業後、学んだドラッカーのマネジメント論を活かし、女性のみならず、経営者やビジネスマンを対象に各地で講演活動や企業の社員研修などで活動中。

 

はじめに

松尾芭蕉の言葉に「不易流行」とあります。どんなに時代が変わっても変えてはいけない「不易」のものを大切 にしなければ、日本はこれから繁栄していきません。宝塚は、2014年に百周年を迎えました。伝統に裏打ちされた理念教育体制は、2014年に政府より内閣総理大臣賞・文部科学大臣賞を受賞致しました。宝塚という組織がなぜ百年も繁栄しているのか。

これは間違いなく、日本人として大切な心と、「不易」のものを大切にしているから と思います。

私は、宝塚を退団してからピーター・ドラッカー(以下「ドラッカー」 という)のマネジメントに興味を持ちました。その理由としては、ドラッカーの組織の原理原則と宝塚における経験とが、ピッタリと呼吸するかのように共通事項がたくさんあることに感銘を受けたからです。

ドラッカーの著書である『マネジメント』下巻では宝塚創始者・小林一三先生(阪急・東宝グループ創始者)の事績にも触れていました。ドラッカーも、小林一三先生の画期的な事業に注目していたことを知りとても感動しました。

現在はドラッカーの教えを学びながら、いまの組織社会に役立つ情報を私なりに勉強するとともに発信しております。本寄稿では、私が宝塚での経験を通し学んだことと、ドラッカーの言葉をご紹介しながら、お話させていただきたいと思います。

宝塚の組織の在り方

ドラッカーの言葉に、「経営者自身の見方は、事業は外向き、組織は内向きに見るべきである」 というものがあります。この言葉を知ったときに、宝塚の組織の在り方と同じである と思いました。

「事業は外向き」 つまり、お客様向けには宝塚の舞台も主役のスター・成果・実力主義中心に舞台が成り立っています。しかし、舞台を一歩降りると (組織内部)、徹底した年功序列を大切にしているのです。

先輩は後輩を教え導く責任を持ち、後輩は先輩から学ぶ素直さを持つことにつながります。その結果、組織のメンバーに「位置と役割」が生まれます。また同時に、組織内のチームワーク(絆)が強くなり、日本人としての秩序の美しさが成立するのです。

それでは、私が宝塚を通じて学んだことをご紹介したいと思います。

ゴールが明確である

私は小学五年生の頃、「なんて華やかな美しい世界なんだろう」と宝塚の舞台に心を奪われ、一瞬にしてこの舞台に恋をしたのです。「私もこの舞台から感動をいただいたように、人に感動を与えられる人間になりたい」と思い、この瞬間に、宝塚を目指すことを決めました。

・憧れから感謝へ

宝塚の試験は中学三年生から高校三年生の間の4回しか受験できません。私が合格した時には、倍率は23倍でした。高校一年生の一回目の受験では自信が持てずに失敗。その失敗から自分自身の足らない点をノートに書いて、一つひとつ改善していきました。

高校二年生における二度目の挑戦では、結膜炎にかかり最終試験で不合格。 タカラジェンヌに必要な健康管理ができていませんでした。

高校三年生の受験資格が最後の年には、これまでコツコツと努力してきたことが自信に変わり始めました。そして最終試験前日、自分の中に初めて熱い感情が溢れてきました。それは「感謝の気持ち」です。

まずは夢に感謝。 宝塚と言う夢・目標ができてから、一つのことを一生懸命に努力することの 楽しさやすばらしさを学びました。

そして、もう一つは両親や周りの方々への感謝の気持ちです。北海道・ 札幌の実家から宝塚を受験するため に、夏・冬休みは東京へお稽古に通い、どんなときも両親が私の可能性を信じてくれる愛が根底にあったからこそ、夢を諦めることなく頑張れました。

ラストチャンスでは、試験官の先生方へ感謝の気持ちで、「見て下さってありがとうございます」という気持ちを込めて表現したことにより、合格することができたのだと思います。

今、振り返ると「感謝の気持ち」に 気付いてから、導かれるように人生の何かが変わっていったように思います。

・ゴールを明確に決めることの大切さ

この小学五年生の時に明確に目標を定めたことが、今の自分自身へとつながっていると思うと、人生において「ゴールを明確に決める」ということはとても大切なことであると思います。信じたことが現実となり、人生をかたちづくっていくのです。

しかし同時に、今は夢や目標がなくても、目の前のことを一生懸命に頑張ることも、尊くすばらしいことであると思います。今、目のまえにある事から、逃げずにひとつひとつ小さな努力を積み上げていくことで、人は成長するのです。何かを一生懸命やり抜いた人には、そのことに響いた誰かがチャンスを持ってきてくれ、そこから道が拓けていきます。

宝塚創始者・小林一三先生が出世の条件として、こんなお考えをされています。

第一の条件は、正直でなければならぬ。いかに優秀な技能を有する人でも、 らつ腕の人でも、信用がなければ成功はおぼつかない。

第二の条件は、礼儀を知ることである。粗暴の言辞を放ったり、手荒な動作をする人は、信用を得ることができない。

確かに、技術がどんなにすばらしくても、組織が発展していく上で、人の意見を素直に聞かない方は成長することが難しいと感じます。本当に伸びる人は「素直さ」と「礼儀」を知っている方であると、私自身も経験から感じています。

ドラッカーも同様に、「真摯さは、ごまかせない」と書き残しています。その真摯さは、「自分の子どもを その者の下で働かせたいと思うか・・・」という問いによって明らかになると言います。自分自身にこの問いを投げかけるとき、目の前のことに自らが真摯に向き合っているかを知るのです。

 

  • ドラッカー学会 Drucker Workshop