#039 「集中する」ということ

藤田勝利(ドラッカー・スクール卒業生、PROJECT INITIATIVE株式会社代表取締役)

【著作】『ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント』(日本実業出版社)、『英語で読み解く ドラッカー「イノベーションと起業家精神」』(The Japan Times)

 

30歳の時から2年間、米クレアモントのドラッカー・スクールに学んだ。「ビジネス」よりも、「マネジメント」の本質を学びたかった。事業の成果をあげながら(つまり、ビジネスとしても成功しながら)、人も社会も幸福になる「経営」(マネジンメント)とはどのようなものか? ― 経営理論がとかく「バラ売り」で語られる中、一本の確たる軸を持ち、かつ各論も決して疎かにしないドラッカーの経営論に出会ったとき、心から「本当の経営学」を学びたいと思った。

ドラッカー教授とドラッカー・スクールが教えてくれた経営論の中には様々な重要テーマが内包されるが、今回いただいたこの貴重な機会を、現代を生きる我々(私自身)にとって最も難しい課題である「集中」というテーマに使わせていただきたい。

「人生100年時代」を説く本がベストセラーになる一方、わずか10年前に飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長したIT企業が早々と姿を消す。我々は、まさに「知識労働者が、事業そのものよりも何倍も長く生きる」というドラッカー教授が見通した時代に本格突入している。教授は、こう語っている。

「働く者、特に知識労働者の平均寿命と労働寿命が急速に伸びる一方において、雇用主たる組織の平均寿命が短くなった。今後、グローバル化と競争激化、急激なイノベーションと技術変化の波の中にあって、組織が繁栄を続けられる期間はさらに短くなっていく。これからは、ますます多くの人たち、特に知識労働者が、雇用主たる組織よりも長生きすることを覚悟しなければならない」(『プロフェッショナルの条件』)

私自身、「知識労働者」として成果をあげたいと願い、悪戦苦闘する中で、最も難しいと感じるのが「集中」である。古代の偉大な哲学者であるアルキメデスは、「立つ場所を教えてくれれば地球を持ち上げてみせる」と語ったという。集中するものはパワーとエネルギーを蓄え、拡大・発展する。しかし、知識労働の時代は、情報と機会が溢れていて、集中することがこのうえなく難しい。工場の稼働ではなく、自分自身の意識と行動を集中させていなければ、気づかぬうちに「非生産的な」仕事を繰り返してしまう。今こそ、下記のドラッカー教授の言葉も胸に刻みたい。

「集中とは何か? それは真に意味あることは何か、もっとも重要なことは何か、という観点から、時間と仕事について自ら意思決定する勇気のことである」(『プロフェッショナルの条件』)

私たちは「自らの人生をかけて自分の事業を定義する」という大きな勇気を発揮しなければいけない。とても厳しいが、まさに本質的な要求でもある。ドラッカー教授の言葉はいつも直接的で、厳しく、そして温かい。15年前、クレアモント大学院大学の教室で初めてドラッカー教授の講義を聞いたときの第一声を思い出す。

「Remember who you are. Take your responsibility.」
(「自分はいったい何者か?常にそれを問いなさい。そして、自分自身でその判断に責任を持ちなさい」)

集中するには勇気と責任が必要である。ドラッカー教授が夢見た、自由で豊かな産業社会を、知識労働者として私たちが実現していくために、私たち個々人が新しい形で勇気と責任を発揮していかなければならない。膨大な情報の中で、集中すべき重要なことを見失いそうになるとき、私自身いつもそのように自分に言い聞かせている。

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