#014 それぞれのドラッカーたち
髙比耒真紀(ソニー生命保険株式会社 長崎ライフプランナーセンター第2支社)
私にとってのドラッカーは、一人ではない。
井坂康志さんの中には穏やかな眼差しの「小さなドラッカー」がいて、私にフィードバックを通じて自分と対話する豊かさを教えてくれるし、佐藤等先生の中にはドラッカーの実践を、わかりやすい言葉でガイドする「小さなドラッカー」がいる。
私が住む長崎にもまた「小さなドラッカー」たちがいる。ドラッカー読書会に集まる仲間たちの中にある。彼らはドラッカーの言葉を日々の生活や仕事の実践に活かそうと学び、自分たちの成長のため、真摯にそして赤裸々に互いを刺激し合い、相互承認し、切磋琢磨している。ドラッカーを学問として「わかる」ためではなく、「やる」ための、そして、心のクレドともいえる、それぞれの小さなドラッカーを連れている。その肩に、胸に、丹田に、傍らに。
ドラッカーと彼らは私に「自分を知れ。変えてはならない。持つものを活かせ」と鼓舞してくれる。その空間が温かく心地よく、通いだして2年半が過ぎた。
ときに職場で苦悩し、自分の小さなドラッカーを家に置いてくる人がいる。そんなときは他の小さなドラッカーたちが、彼の苦悩という努力を承認・称賛し、ドラッカーの教えに基づく愛ある真摯な問いによって、打開策の気付きと自発的行動を促す。そして彼は、明日の実践へのわくわくを持ちかえる。他の小さなドラッカーたちは、次の読書会での実践報告と変化を楽しみにして帰路につく。かつてドラッカーが「私が興味があるのは、あなたが明日、何をするかだ」とコンサルティングの最後に語り、優しくクライアントを見送ったのと同じように。
奥様のドリスさんは生前「ドラッカーを遺産にしないで欲しい」と言われたと聞く。ドラッカー亡き今、ドラッカーの言葉を伝えていくことは、それに応える方法のひとつだろう。
自分の言葉で、伝わるように語る。
それは、ドラッカーが生涯努めていたことだ。その足元に届くことは到底難しいが、その真摯さを目指し、己の言葉で目の前の相手に届くように伝え続けようとすることが、今を生きる私たちにできることではないだろうか。それぞれの小さなドラッカーたちから紡がれる言葉こそが、それを成し得る。悩み苦しみ、その中で自分の血骨となった言葉だからこそ、相手の心に届く言霊となる。
私の中にも「小さなドラッカー」がいる。
ドラッカーは難解だと感じている心のドアを、私が紡げる「伝わる言葉」でノックしたい。とくに女性に伝えていきたい。ドラッカーは恋愛や家庭にも、子育てにも、ダイエットにも役立つからだ。そして長崎の、全国のドラッカー読書会や研究会で共に、笑いながら、泣きながら、ドラッカー実践の悪戦苦闘の日々と成長を共有し、本の中にあるドラッカーと対話し続けていきたい。
それぞれの、小さな生きるドラッカーたちと共に。