#007 ドラッカーの意志

阿部美穂(消費者センター 商品テスト指導員)

 

『プロフェッショナルの条件』の背表紙の顔貌。これがドラッカーとの出会いだった。隣の部署の部長の本棚にあった鋭い視線に気付いたのだ。そのときは、やり手の部長ともなると、こういう本を読むのだなぁと感心はしたものの、そのまま遣り過ごしてしまった。

しかし、合縁奇縁というべきか、しばらくしてブックオフの100円コーナーでこれを見つけ、迷わず購入した。ちょうど2000年の頃である。

当時は、組織全体に共通する業務の手順書の作成に携わっていたのだが、内部監査で、ある不適合が頻発したことがあった。手順書にはちゃんと書いてある。手順を守らない現場が悪いのか?

……否! ドラッカーは、コミュニケーションの主体は受け手であると言った。大工と話すときは大工の言葉をつかえと教えてくれた。不適合が頻発したということは、受け手ではなく、発信側に問題があるはずだ。その視点に立ったとき、答えが見えてきた。

現場の人間は、締切に追われ、あわただしく実務をこなしながら手順書を読むのだ。必要事項が探しやすく、わかりやすく書かれていなければ、受け手には伝わらない。件の手順は、わかりにくい箇所に書かれていた。ドラッカーの教えどおり、受け手主体に手順書を手直しして以降、この不適合は起きなくなった。

これはほんの一例で、仕事のあらゆる場面でドラッカーは大いに役立った。その慧眼に何度驚かされたことか。そして、ある言葉の意味に気づいたとき、私のドラッカーへの思いは、決定的なものとなった。

その言葉とは、「組織をして高度の成果を上げさせることが、(ファシズム全体主義から)自由と尊厳を守る唯一の方策である」というものだ。

ドラッカー思想の根本に「人の自由と尊厳を守る!」という熱い意志が厳然としてあったのか。この意志あっての「強みの上に己を築け!」であり、真摯さの絶対視であったのだと気づいたとき、私の中に熱いものがこみ上げてきた。それは、ドラッカーに、一人ひとりの人間に対する揺るぎのない〝愛〟を感じたからに相違ない。

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