#015 教員に必要な考え方
池谷聡(明星大学デザイン学部准教授)
仕事柄、大学生から就職の相談を受けることが多い。
話を聞いてみると、「ビジネス」、あるいは「企業」「お金を稼ぐ」「利益をあげる」といったことに対して、漠然と嫌悪感を持っていることが原因で、社会に出ていくことに対して前向きになれていない学生が少なくない。この手の学生は、就職活動で苦戦をする。当然といえば当然である。そして、この傾向は、教員にも共通して見られる。
そういう自分も、「お金を稼ぐ」ということ、とくに、「利益をあげる」ということに対して、長い間、罪悪感を持ったまま仕事をしてきた人間である。
経験を積み、学び、働くことを通じて、
・商品やサービスは必要とされているから存在すること
・商品やサービスを提供するためには道具や材料が必要であること
・働く人の生活を支えるために給料が必要であること
など、ビジネスに対する理解が深まり罪悪感は薄まっていった。
給料に見合うだけの「価値」を社会やクライアントに対して提供できているのかと聞かれれば、今でも、自信を持ちきれないこともあるが、働くことを通じて、ビジネスに対して前向きになっていった。
しかし、「利益をあげる」ということに対してだけは、長い間、僅かに罪悪感を残したまま私は、仕事をしていた。
その罪悪感を拭い去ってくれたのが、友人から教えてもらった「利益は手段である」という、ドラッカーの言葉だ。
この言葉には、社会のあり方、個人のあり方、そして、企業のあり方についての深い考えが詰まっている。この出会いをキッカケに、私は「ビジネスは社会貢献である」と自信を持って言えるようになった。
今、教育の現場において、キャリア教育の重要性が叫ばれ、さまざまな取り組みがなされているが、社会のあり方、個人のあり方、そして、企業のあり方について考え抜かれた取り組みは少ない。社会に出て行くこと、ビジネスに関わること、企業に関わること、そして、利益をあげることに対して前向きになれることは、学生たちがキャリアを考えるうえで最も重要なことだ。
だからこそ、教員は、「利益をあげる」ということについて向き合い、深く学ぶことが重要ではないだろうか?