#050 出来るビジネスパーソンはお茶を嗜む

宮﨑宗萌(花道茶道わかば会 会頭)

 

聞き手/井坂康志

 

 

茶人ドラッカー――和敬静寂の人

――宮﨑さんは茶道の先生ですね。マネジメントの父ドラッカーも、来日した折り京都でお茶を嗜んだそうです。ドラッカーについてはどんな印象ですか?

宮﨑 ドラッカーさんは、日本が生み出したものに注目していた印象があります。茶道もそうですが、日本画、しかも禅画の達磨絵に心惹かれていたのですよね。茶席の掛け軸でも、達磨像は床の間に掛けられるんです。

――なるほど。

宮﨑 自己の内にある心を掴めという教えなのです。お茶を中国から伝えたのは栄西禅師ですので、茶道は禅宗の教えを強く受けています。なので、今でも禅画が床の間に掛けられるのです。禅画の達磨絵を心の中に住まわせるドラッカーさんって、どこか茶人のようだなと思っていました。「和敬静寂」という茶道の言葉があります。まさに、「寂」の方です。「寂」は、とても静かなのに堂々としている様。ドラッカーさんは、そんな印象とお伝えするのがぴったりです。

――哲人にふさわしい形容詞。ほかに日常化しているもので、茶道に由来する言葉はありますか。

宮﨑 一期一会はそうですね。井伊直弼は茶人としても有名で、彼が書き残した『茶湯一会集』に四字熟語として出てくるんです。

――一期一会。

宮﨑 育児をされているお母さんや、会社でがんばっているビジネスパーソン、学校の先生など、茶道がなかなか届かない人にもこれから届けたいですね。

 

茶道とマインドフルネス

――「寂」はどんな人にも必要ですね。先ほど禅の話が出ましたが、スティーブ・ジョブズも関心を寄せていたそうです。「出来るビジネスパーソンはお茶を嗜む」という時代かもしれませんね。

宮﨑 私の茶道教室でも、お稽古の始まりと終わりには、必ず瞑想(黙想)をするんです。

――それは素敵ですね。

宮﨑 生徒さん、皆さん様々なお役を果たしていらっしゃいます。お母さん、妻、職員・・・色んな自分の役をこなしているので本当のご自分が、どんな人なのかみなさん、忘れちゃっているでしょう。

――おっしゃる通りです。私もその一人ですが。

宮﨑 ですので、心を落ち着けて、本当のご自分をどうぞ思い出してくださいって。それからお稽古を始めましょう、と生徒さんにはお伝えしています。

 

茶室で本当の自分と出会う

――素晴らしいですね。本当の自分と出会う場所。

宮﨑 本当にすっきりします、瞑想後の自分は。たぶんビジネスパーソンにも茶道はフィットすると思います。

――そうですね。無限の可能性があるのでは?

宮﨑 私もそう思います。そもそも、茶道は男性の嗜みですから。

――そういわれれば、確かに。

宮﨑 特に先の見えない、こんな時代だからこそ茶道がビジネスパーソンの方々のお力になれることはたくさんあると思います。

――ただ、茶道というと少し敷居が高いと感じる方もいます。

宮﨑 ええ、一般的な茶道のイメージは敷居が高くて、覗きたくても覗けないような(笑)。興味があっても、一歩踏み出すことに勇気がいるかもしれません。

――そんな方に一言お願いします。私もその一人なので。

宮﨑 茶道といいますと、礼儀作法とか花嫁修業の場だとお考えの方が多いと思いますが、実はそんなことではないのです。心を静める場、心を清める場、心を見つめる場、心と対話する場。そんな時間が茶道です。敷居が高いとか低いとか、ありません。

――おっしゃる通りです。最近よく言われる「マインドフルネス」に通じますね。とくに仕事も子育ても踊り場に来て、第二の人生を考える時期の方にとって、茶道を始めるにはうってつけのタイミングではないでしょうか。ドラッカーもセルフマネジメントで、40歳を過ぎたら第二の人生を考えよと言っていました。

 

作法というより武士道

宮﨑 今です、お茶を嗜むときは。

――嗜むって、いい響きですね。アコースティックな感じ。

宮﨑 そうですね。

――ちょっと余裕ができたときお茶を嗜みたいものですね。

宮﨑 茶道は武士道に近いのではないでしょうか。

――武士道?

宮﨑 作法というより、武士道かなと思うことがあります。その昔、茶道が大流行したのは安土桃山時代なんです。戦国の世です。あの時代に男性方はこぞって、茶道をしたわけです。なんでかなとずっと、心にありました。

――どうしてでしょう? 確かに不思議です。

宮﨑 何のために、茶道が必要だったのかなと。間違えても礼儀作法のためとかないじゃないですか(笑)。

――ええ、確かに。花嫁修業でもない(笑)。

宮﨑 そうですね(笑)。

 

「心の戦国時代」を乗り切るために

利休の本や歴史の本を読んだりして、様々考えてみたのですが、やっぱり生きるためだったのかなと思うんです。生き残っていくために、お茶を点てるんです。心が乱れたら、あの時代、死ぬんです。沈着冷静に、よく見極めて、誰に従うべきか、誰から離れるべきか、どの手が有効で、どの手が無効なのか、心をしーんとした湖面みたいにしてね、考えたのだと思うんです。

――現代にも通じますね。

宮﨑 そうですね。戦国の世と今の世、似ていませんか?

――日々高度な判断が求められる。

宮﨑 ビジネスパーソンの方々は大変です。上司から抑えられ、部下からは突き上げられ、残業は当たり前。社会で生きることは、こんなにも大変なことなのかと。どうしたらいいのかと。真剣に悩む方が多くいらっしゃいます。

現代は「心の戦国時代」です。そんな現代を生きるビジネスパーソンの方に思い出してほしいのです。かつて戦国時代を生きた武士たちはどうやって、乗り越えてきたかということを。

――茶道、はじめてみたいです。

宮﨑 温故知新(笑)。

宮﨑宗萌(花道茶道わかば会 会頭)

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