#040 「全共闘」と「はだかの王様」

中島信((株)かい援隊本部)

 

人の心と社会への働きかけ

この拙い文書を作成した小さな経緯があります。
若い時から独立して会社を興した方で、「自らの“組織に頼らない生き方”を遍く人々へ注入し自立精神形成し、もって世直しをする」という信念をもって「人生道場」を始めた人がいます。私も所属するある団体の理事長の方です。この道場のトレーナーを育成する講座のモニターを要請されました。

①強い思いを持てば人に必ず伝わる
②伝わらないのは自分が弱いから
③もって精神を鍛えろ
……とのことでした。

感想文が求められ、10人位のモニター受講者はいずれも「力が出ました」とか、「私もプロデューサーを目指します」とか「理事長の一言、一言に感動しました」などの簡潔な感想文でした。でも、どうしても、しっくりこなかった私は、なぜだろうと思いました。理事長さんの自分の人生話だったので、自分も少しだけ、今までの忘れていた身の回りのことを振り返り「このメモ」を作成し提出しました。こんなに曖昧で冗長な感想文は私一人でした。

1 全共闘

 全共闘は、きちんと書くと「全学共闘会議」ということになります。小生はいわゆる“全共闘世代”であります。ベトナムで激しい戦争が毎日報道され、戦闘機は、日本の米軍基地から飛んで行きます。どうこれを飲み込むのか。大学に行くと、何十年同じノート使った教授による、その場加かぎりの無気力授業。

そんな中で、怒涛の動きが学生の間に生まれきたのが全共闘ムーブメントでした。しつこく、夜中まで社会のあり方、それと一人一人の関わりを論議し、行動を語り戦います。

これは熱い日々ですが、小生はどうも、この中で出会う人々に人としての共感が持てませんでした。家の近くのタバコ屋のおばちゃんの一言に、はるかに強い絆を感じました。

「社会主義者は、その酒の飲み方がある。」という、運動を指導する権威筋の文書を、こうしたことへの虚しさの渦の中で、凍り込む思いで見つめました。現実にも何一つ変わりませんでした。「俺は、社会とは別に生きよう!」多くの学生(自分も入れて)が、思ったことです。

2 ある売れない歌手

 そんなことで、ライブハウスなどに行くようになりました。そこで、少し才能がありそうな無名な歌手を見ました。彼は、そんな才能はドブに捨て去り、「社会へつながる、そこへの影響をあたえる。」ことにあえて背を向けていました。全く売ろうともしない、売れもしない歌、ただ自分を、当時のメロディーライン、歌唱法を無視して歌っていました。これには、心底共感しました。こんな姿が、思わぬ共感の渦を生み、彼は大きな流れの中心となって、皮肉にも日本の音楽シーンを大きく変えることになりました。

“タクロー”こと吉田拓郎の誕生でした。

3 最近のこと

 私は、一応現役が終わったとき、その職場での継続、会社の顧問とかの、お誘いをいただいたが、なぜか新入社員時代に戻りたくて、病院の女子事務員の下にアルバイトで勤務しました。病院というのは、医局、看護局、事務局で構成され、一番プレゼンスの低い部門である女性事務員の、またその下。大会社の本社部長からの華麗なる転身でした。でも、これが本当に勉強になりました。大企業管理職何十年より、人がよくわかりました。

最近こんなことがありました。後輩の大会社幹部に、「たまには一杯やろうよ」と声を掛けました。「中島さんには、みんなお世話になりました。皆に声かけて、大いにやりましょう」との返事でした。集まったのは3人。

一方、下っ端の下っ端勤務だった病院のメンバーに、「OB会やらないか」って声を掛けました。「皆、くるかな?」って言ったら、昔の女性上司曰く「大丈夫、みんな中島さんのファンだから」ということで、大いに声をかけていただいて、医師だの、看護師だのも参加意向があり40人を超える御案内対象者となりました。今、この案内発行やら会場選定やらで、大忙しです。

人って、面白いですね。

4 はだかの王様

 19世紀の終わりのデンマークに全く同じ時代に、2人の「人とは」と考えた有名人がいます。キエルケゴールとアンデルセン。実存主義元祖のキエルケゴールは、教会の既存勢力と戦います。全共闘ですね。アンデルセンは、同じモチーフですが、童話を書きました。このアンデルセンのお話の一つに、誰でも知っている「はだかの王様」があります。主要キャスト4人です。

(その1)王様  政治より、衣装が大好きな人
(その2)仕立屋  王様に、「バカには見えない」衣装を売り込んで王様をすっかりその気にさせ、衣装をせっせと作るふりをする人
(その3)大臣  王様は、「自分に見えないこと」が恐ろしいので、王様の指示で、作業進捗さぐり、素晴らし衣装ができたと報告する人
(その4)子供  王様ができた衣装を見せびらかすために行った大パレードで、たくさんの群衆が王様の衣装を褒め称える中で、「王様は、はだかだ!」と叫ぶ人

集まった群衆は、子供の声で、「王様は、はだかだ!」と大騒ぎになります。
でも、いったん始まったパレードは止まりません。「大喜びの群衆の中、パレードは続く」として、物語は終わります。この物語の中に、全共闘も、売れない歌手も、病院の女性上司も、みんな姿が見えます。私自身も隅に見えます。すべてこの物語に流れ込んでいます。そんな気がします。

5 社会につながる力

 私は、人との出会いは大事(というより、面白い)と思います。また、大切です。でも、私には得意技はありません。社会のニーズも、正確にわかりません。0×0=本当の“ゼロ”です。でも、少しだけ“思い”があって、人と話すのが好きです。このことで、明日何か起きるのか、10年後に何かになるのか、死後か、結局何もないのかは、わかりません。でも、少し「思い」はあります。

プロデューサーの能力も資格も、志向性もありません。挫折の全共闘、売れない歌手、下っぱ事務員、無邪気な子供であります。最先端の複雑系理論は、北米での巨大ハリケーンの原因は、アマゾン川の一匹の蝶々の羽ばたきとしています。
たいへん貴重な講座、誠にありがとうございました。

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