#043 社会で働く人たちの学習支援をめざして

中野羊彦((株)日立総合経営研修所ラーニングセンタ員、ドラッカー学会企画編集委員 

 

私は、大学では産業社会学を専攻したが、卒業後、日本のエネルギーや社会インフラの課題解決に貢献したいと思い、日立製作所に入社した。その後、人事・勤労部門を経験し、入社して15年経って、今の日立総合経営研修所に入所した。経営研修所では、日立の従業員の研修の開発を担当し、大学で学んだ産業社会学の考え方も活用している。

ドラッカーに興味を持ったのは、入社して10年経った30歳代の前半であった。最初に読んだ本は『経営者の条件』、この本を読んで「貢献に焦点を合わせよ」という言葉が心に響いた。「これはいい」。その後、ドラッカーをもっと読もうと思った。ところが、2番目に「創造する経営者」を読んで、理解が進まず、途中で投げ出してしまった。「ドラッカーは難しい」。そう思い、その後読まずじまいで、20年が過ぎてしまった。

再びドラッカーに興味を持ったのは、50歳代に入ってからである。経営研修所の研修開発部長になり、日立の研修開発の責任者になった。その時に、大企業の社員として、何か心の拠り所を持ちたいと思った。その時に思い出したのが、20年前に読んだドラッカーである。今度は、これをもっとキチンと読もうと思った。たまたま、慶應義塾大学でドラッカーの3か月間の短期コースをやっていたので、これに参加し、そこで基本的な考えを学んだ。また、その後不思議な縁で、2週間、クレアモント大学でドラッカーの愛弟子マチャレロ教授のもとで、ドラッカーの考えを直接学ぶ機会を持った。これもドラッカーの理解に役立った。そして、もっと深くドラッカーの勉強をしたいと思い、ドラッカー学会に入会した。

企業の社員として、どのように仕事に取り組んだら良いか。ドラッカーは、企業のミッションとして、「事業を通じて顧客に価値を提供すること」、「従業員に位置づけと役割を与え強みを活かすこと」、「社会に対して貢献をすること」を言っている。また、これからは「知識労働者」が主体になり、変化を活かすために「継続学習の必要性」を言っている。これらは、企業人が仕事に取り組む際のバックボーンになる。

また、これは日立の基本的な考え方にも合っていると思った。今、日立は「社会イノベーション」を標榜し、単なる製品売りではなく、顧客や社会に貢献するためのソリューションを提供しようとしている。しかも、これをグローバルに展開しようとしている。IOTやAIなどの新技術も活用していく。日立で働く従業員も、これからは益々「知識労働者」としての役割が求められるだろう。このような従業員の意識改革や能力開発にもドラッカーの考えは役に立つのではないだろうか、そう考えた。

会社では、彼の基本的な考え方を研修に活かすように努力した。例えば、新任主任研修は、ほとんど自分が内容を企画して開発した研修だが、日立の技師・主任の役割として、

①大きな仕事を任され、自分でPlan→Do→Check→Actionを回す

②他人を巻き込んで仕事をするとともに、部下・後輩の育成の責任が生ずる

➂独自の専門知識を持ち業務に活かす

の3つを揚げた。そして、「貢献に焦点を合わせること」や「信頼関係の構築」、「強みに基軸を合わせること」や「継続学習」などについて、議論できるものにした。これらは、ドラッカーの考えがもとになっている。日立グループでは、何千人もの新任技師・主任がこの研修を受講している。このように研修の開発にドラッカーの考えを活かすように努力した。

その後60歳を過ぎ、役職を離れ、今は研修所の研修の評価などの仕事をしている。今は、会社の仕事だけではなく、むしろドラッカー学会の活動にもエネルギーを注ぐようになった。例えば、「ドラッカーの窓から明日を考える研究会」の幹事や、ドラッカーフォーラムの企画編集委員などの仕事をしている。ドラッカーの考えを、一つの企業だけではなく、社会に広めていきたい。そのために、研究会では広く人を集め、ドラッカーの窓から社会の課題解決の方法を議論していきたい。ドラッカーフォーラムでは、ドラッカーを実践している人たちの記事を書いて、広く読んでもらいたい。

これからの時代は、日立に限らず、社会全体でドラッカーの言う「知識労働者」の時代が益々進み、人々は益々「継続学習」が必要になる。AIなどが進んでくると、AIではできないような、問題設定能力や情報編集能力などが益々重要になるだろう。教育も集合研修のような形態ではなく、一人一人にカスタマイズして、一人一人が自律的に情報を得て学んでいくのをナビゲートするような形態が主流になってくるかもしれない。「一人一人が貢献の想いを持ち、自分の強みと変化を活かすための継続学習をしていく」。このようなドラッカーの考え方が益々求められるようになると思う。私も、様々な活動でこれを実践し、また、そのような考えを広めていきたいと考えている。

 

 

 

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