#025 タイシツカイゼン ― 成果をあげる人となるために

瀬川智美子(実践するマネジメント読書会 ファシリテーター)

 

昨年12月、本拠地をこの世からあの世に移した父は、とある会社の経営者でした。身内のひいき目を差し引いても、父は成果をあげる経営者だったと思います。

生前に父と関わってくださった方々がお通夜の席で聞かせてくれた、ひとりの人間としての父。長いものに巻かれず、組織は人で成り立っているのだからと働く人を大切にし、人材の育成にも力を注いだ人。口数は少ない人でしたが、町内会の集まり、PTAの役員会、会社の会議……、常に組織の成果に目を向けて多勢に流されず、異なる意見を言えた人。カンタンに言えば……「うるさいオッサン!」

「どうしてお父さんは、わざわざ嫌われるようなことを言うのだろう。皆さんと同じ意見ですと言っておけば、波風たたずに済むのに」と思ったこともありました。しかし父は嫌われてなどいなかったし、属する組織は成果をあげていた。なぜだろう? 長い間、不思議に思っていました。

3年前、読書会を通じドラッカーと出会った私。『経営者の条件』を読み進めるにつれて、父への理解が深まりました。

ドラッカーさんが書いている「成果をあげる人」の共通項の中には、父の思考習慣や行動と重なる部分が数多くあります。正しい決定のための、対立する意見の重要性についても触れています。

病に倒れ、お医者様から先は長くないだろうと言われていた父。付き添っていた私は、一つでも多くのことを父から学びたいと思い、問いかけました。

「お父さん、ドラッカー読んだことある?」

「ないなぁ」

「てっきりあると思ってた。この本にね、成果をあげる人になるには(かくかくしかじか)こうすればいいってことが書いてあって、それがまるでお父さんみたいだからさ」

「トミコはいい本を読んでいるな。お父さんはその本は読んだことないけど、そういえば若い頃に、そういうことが大事だと教えてくれた先輩はいたなぁ」

父の応えを受けた私は、ドラッカーさんの本に書いてある内容は本物なのだと感じました。なぜなら「ドラッカーさんが成果をあげる人について書いたあとに、成果をあげる人が出てきた」わけではなく、「成果をあげる人や企業を見続けてきたドラッカーさんが、そこから成果をあげるための原理原則を取り出しまとめたものがドラッカーさんの本」だからです。

本を読んでいようといまいと、成果をあげる人の考え方や行動には共通するもの、古今東西変わらない不変のものがあるに違いない。

最近の私はその裏づけを取るために、経営者の友人や大きな組織で役職についている友人など……「この人は成果をあげているなぁ、考え方がドラッカーっぽいなぁ」と思う人たちに、読んだことがあるかを聞いています。読んでいる人も、読んでいない人もいます。

読んでいない人のなかには、「読んだことはないけれど、言っていること、やっていることがドラッカーっぽいねと言われることはあるよ」という人もいます。そして誰もが口を揃えて、「読んだことはないけれど、教えてくれた人はいる」と言います。

成果をあげる能力は、生まれつきの才能ではなく習慣として身につけることのできるもの。人との出会い、本との出会い、きっかけはなんだっていい。人それぞれが自分と相性の合うやり方で身につけていけばいい。

「ドラッカーを学ぶことで、全国にかけがえのない仲間ができたよ」という私の話を聞きながら、「友だちは宝だ、大切に」と満足気にうなずいていた父は、その次の日、静かに息を引き取りました。

成果をあげる人となるための体質改善……私が活用しているのは、父の生き方そのものから学んだことと、その父が「いい本だな」と言ってくれたドラッカー。

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