#084 地域社会の活性化に貢献するイーグルバス(2)

谷島賢(イーグルバス株式会社・イーグルトラベル株式会社・イメディカ株式会社・株式会社イデア総合研究所の代表取締役社長)

 

「顧客第一」と「信用」

イーグルバスの、第四の経営理念は「顧客第一」であり、第五の経営理念は「信用」である。ドラッカーは「真摯さ」が重要と言ったが、イーグルバスは、これらの経営理念「顧客第一」と「信用」を真摯に実行している。1998年に利用者対応や社員教育を担当するCS推進室という部署を設け、会社全体のサービス力の強化に取り組んだ。また、業務品質向上の一環としてISO9001(品質マネジメント)、ISO14001(環境マネジメント)への取り組みも開始し、2002年に認証取得した。イーグルバスでは、バス運行の品質を「安全」と「顧客満足」に分けている。これは「顧客第一」と「信用」の二つの経営理念を体現するものと言って良い。安全は事故ゼロが最高だが、顧客満足は拡大していく。これらは際限なく追及していくべきものである。

先にイーグルバスが日高市の不採算路線を引き受けたことを紹介したが、この不採算路線の再建の取り組みも、このような「顧客第一」と「信用」を実践したものであった。2006年にこの赤字路線バスを引き受けた谷島社長は、この時初めて、生活路線バス事業と他のバス事業が根本的に違うことを知った。「たいへんな世界に足を踏み入れてしまった」というのが正直な感想であったと言う。

これまでやっていた送迎バスや観光バスはお客様と相対の契約なので、価格が折り合えば仕事を受ける。だから必ず利益が出る。しかし、路線バスは顧客がゼロであっても、365日、稼働率100%。予備のバスや運転士も必要であり、ものすごくコストがかかる。このため、引き受けた日高・飯能路線は赤字が膨れ上がり、初年度だけで2,000万円にも昇った。日高路線に続き2路線を引き受けた事で、長年続けてきた黒字経営も赤字に転落した。

顧客の声を聴く

谷島社長は、「乗客が減ったのは、バスへのニーズがないのではなく、利用しづらいからではないか」と考えた。まさに「顧客第一」の発想である。ドラッカーは「顧客の声を聴け」というが、イーグルバスは、実際に顧客や地域住民にアンケートを取り、バスに対する不安を洗い出した。アンケートはかなり詳細に作り、単に「バスが遅れていた」という感覚的なものではなく、「何月何日、どの停留所の何時何分の便がどれくらい遅れていた」というレベルまで調査することを重視した。およそ700通の回答から、いろいろな問題点が浮かび上がってきた。

バスの運行状況を「見える化」するために、ITを活用した。路線バスのあらゆるデータを収集して目に見える形で把握し、PDCAサイクルで改善する。バスの乗降客を数えるセンサーを設置、さらにGPSセンサーで位置を確認し、運行記録をデータ化した。このITシステムは埼玉大学と産学協同で開発したものである。これにより、「いかに乗客ゼロの区間が多いか、ダイヤの時間と実際の運行時間とずれているか」などが分かるようになった。このような「見える化」により、実際に運行ルートの変更やダイヤの改善を行った。そして改善の結果を、またデータで確認し、PDCAの改善サイクルを着実に回した。例えば、病院から500m離れているイーグルバスの停留所に乗客が突然増えたので調べると、他社の路線が撤退するため病院を通るバスが減少したことが分かり、運行ルートを変更しバス停を病院のそばに移動させた。また、宮沢湖温泉では、行楽シーズンには乗り降りに時間がかかりバスの遅れの原因になっていたのに鑑み、これに合わせたダイヤ改正を行なった。

データ任せにはしない

しかし、単なるデータ任せにはしない。谷島社長は言う。「ある時間帯の乗客数が平均よりもかなり少ないと、データ的には削減対象となりますが、実はこの便を利用するのは、毎週通院するお年寄りかもしれません。表面の数字だけで判断すると、こうした交通弱者を切り捨てる可能性があり、公共交通本来の使命を果たせなくなる。データは条件であり、読むのは人間の心なのです。相手を想いやる心を持った社員が必要です。また、現場の運転手の協力も不可欠です」。

バスの運行の改善には当然運転手の声を聴いているが、それだけではなく、実際のサービスの向上は運転手が率先実行している。たとえば、送迎バスのある路線で渋滞が発生する時間帯ではダイヤが乱れ、運転手は厳しい運行をこなしていた。営業が運転手のことを想い、お客様に折衝して、運行を間引いて運転間隔に余裕を持たせる案を考えた所、運転手から「この時間帯はお客様が多く、急いでいるお客様に迷惑をかけます。そこは自分たちの努力でカバーするので、ピークが過ぎた所で時間に余裕を作って下さい」という声が上がった。「顧客第一」や「信用」という経営理念が、社内に浸透し、それがサービスの向上を支えている。

このようなPDCAの改善の結果、3年目からは成果が目に見えて出始めた。この日高・飯能路線の2006年時点と2014年を比較すると、毎月5,000人、年間6万人、率で25%の利用客の増加を果たすことができた。顧客満足度調査を見ても、引き受けた時点では満足度が50%未満だったのに、改善後には83%に跳ね上がった。

2007年には、ときがわ町のバス路線を引き継ぎ、2010年に再編を実施した。以前の町営バスの時代は、バスが2時間に1便で不便なため、利用客が減少し、町の負担になっていた。便利になれば客は増える。町の中心にバスの「せせらぎバスセンター」という中継ポイントを作った。ここにバスを集約し、乗り換え機能を持たせることで、効率の悪い長距離路線を折り返しの短距離路線に変更した。その結果、車両台数を増やさずに運行本数の増加に成功した。2時間に1便が1時間に1便になって便利になった。更にバス停から遠い人にも気を配った。予約した時だけ、臨時のバス停に出迎えるデマンドバスを作った。料金は通常の路線バスと同じ計算で行う。このバスは、他のバスと乗り継ぎしやすいように、中継ポイントまで運ぶ。こうした取り組みで、ときがわ町のバス路線の利用客は再編前に比べて1.2倍になった。

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