本サイトの開設に際して

Organizer / Writer 井坂康志(ドラッカー学会 理事)

ドラッカーは常に新たな思想家です。

ドラッカーの知的実践的対象範囲は事実上無限といってよいほど幅広いものがあります。学者や研究者のみでなく、企業経営者やビジネスパーソン、NPO、病院、宗教関係者など、ドラッカーに学び考えつつ行動を触発される人は今なお後を絶ちません。

ドラッカーは企業のマネジメントを中心とする業績で知られています。けれども、その中心的な問題関心は、一貫して「人と社会」にありました。

古典的著作『企業とは何か』(1946年)では、時代に先駆けて企業の社会的責任について明確な論及を行い、以降の『現代の経営』(1954年)、『マネジメント』(1973年)などで、企業が本来的に社会的存在であり、人を生かし、成長させる責務についての洞察を一貫して展開してきました。

ドラッカーの人と社会への関心は、日本文化や芸術の理解者としても見てとれます。ドラッカーは日本文化への精通者としても卓越した業績を残し、わけても収集された日本画コレクション(山荘コレクション)は日本でも大規模な巡回展が行われ、各界から高い評価を得ています。

日本といえば、ドラッカーは明治の偉人として渋沢栄一を終生尊敬し、ドイツの産業家ヴァルター・ラーテナウに並び、企業の社会的責任の先覚者としての賛辞を惜しみませんでした。ドラッカーの日本への温かな期待を見逃すことはできません。

ドラッカー没後10年あまりを経て、今なお、その影響力は社会に幅広く浸透しつつあります。昨今ドラッカーを学ぶ人たちは企業の経営者に限らず、働く若い女性などの自己啓発にも広がりを見せています。代表的な著作、たとえば『経営者の条件』を読み、感想を持ち寄って明日の行動指針とするような知的交流活動も行われています。会社の枷にとらわれることなく、トータルな人生創造の指南役としてドラッカーが再認識されているのです。

知識をもって価値を生み出す知識労働者が時代の中心を占めるなかで、知識社会をどう後押しし、展開していくか。ダイバーシティやワークライフバランスの叫ばれる時代、あるいは大企業における過重労働や経営陣のモラル欠如が指摘される時代において、個がどのような働き方生き方の指針をドラッカーから学びうるか。

問題意識はそれぞれながら、ドラッカーを思考の補助線として現代を読み解き、未来への指針を得て、持ち帰っていただけるような場を設けたく思い、このサイトを開設することにいたしました。

ドラッカー思想の最大の焦点は、それらが実践に適用され、成果をあげうるかというところにあります。皆様の仕事そして人生に役立てていただけることを願っております。

【関連組織】 ●ドラッカー学会   ●文明とマネジメント研究所

 

Director / Editor 石川実(リフィル・コミュニケーションズ 代表取締役)

「生産的な葛藤」。これはドラッカーの読後感を評した井坂氏の言葉であり、私のお気に入りの言葉です。ドラッカーを読んで葛藤が生じるのは、いたって正常な反応であり、むしろ“ドラッカーという薬”が効いている証し。

ドラッカーは「答え」を示す人ではなく、「問い」を発する人でした。返答に窮する質問、実践が難しい要求を次々と投げかけてきて、肝心の「正解」は教えてくれません。それでも考え抜いた者だけが、「成長」という宝を手にすることができるのです。

たとえば、「われわれの顧客は誰か」という有名な問いがあります。私はマーケティング関連の本を読みあさったことがありますが、この問いは“灯台もと暗し”でした。向上心が空回りし、枝葉のほうに向きがちだった関心を、一気に本質へと引き戻してくれたのです。

ドラッカーは、世のビジネスパーソンとは異なる立ち位置から社会を観察していました。それゆえに日常の些事や一時的な流行などに惑わされることなく、本質を見極めることができたのでしょう。

一方で、現実の会社や仕事に渦巻く理不尽さとドラッカーが語る理想とのギャップに、やるせなさを感じたこともありました。そればかりか、ドラッカーの金言に対して何の生産性もない難癖をつけ、自らの成長の機会をムダにしていた時期さえあります。

そもそも、いかなる賢者の助言であっても、それが今の自分の現実に寸分違わず適合することなどありえるでしょうか。賢者といえど、一人の人間です。そんな当たり前のことにふと気づいたとき、むしろドラッカーの人間離れした深遠なる叡知にあらためて驚愕させられることになりました。

このサイトの構想を井坂氏から伝えられ、具現化していくうえで、一つ大切にしたことがあります。“じっくりと読書をする感覚”でお楽しみいただけるようなサイトの設計です。これを、デザイナーの佐藤翔氏が見事に形にしてくれました。

ぜひ1ページ、1ページ、「生産的な葛藤」を味わいながら読んでみていただけると幸いです。

 

Designer 佐藤翔

このサイトのデザインと開発をご依頼いただいた時点では、恥ずかしながらドラッカーについては名前を知るのみでした。さっそく書店に足を運び、手に入れたのが『経営者の条件』です。何気なく読み始めましたが、思いのほか引き込まれていきました。

「本当は、自分はこんなふうに生きたかったんだ!」

自分の強みを発揮し、日々のルーティン業務に溺れず、自分らしい成果を出すこと。それは会社の一員としての最大の貢献であり、また会社という組織に属さないフリーランスや個人事業主にとっても「人生の舵を自分で取る」という主体的な生のあり方です。自分の働き方と生き方を見つめ直し、「本当に今なすべきことは何なのか」を考える契機となりました。

ドラッカーは長く読み継がれてきた古典であるとともに、最先端の知恵をも授けてくれる普遍性を備えています。そのため、サイトをデザインするうえでは、古典としての格式とともに、「先進性」を表現するよう心がけました。また、多くの方々に触れていただけるよう、文章の見出しや行間などの読みやすさにも配慮しています。

皆様の仕事と人生がより豊かになることを心より願っています。このサイトがその一助となれば光栄です。

 

サイトポリシー

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