#075 人はかけがえのない資産

蓬台浩明((株)都田建設代表取締役社長)

ドラッカーとの出会い

蓬台氏は、社長になるのと相前後していろいろな経営書を読んだ。その中でも、ドラッカーの本が心に響いたと言う。ドラッカーは、「マネジメントこそが文明」と述べている。蓬台氏もまた、「マネジメントで、ヒト・モノ・カネの幸せのスパイラルを作る。このようなあり方こそが、21世紀の社会・文明を創る」と考えている。

ドラッカーのマネジメントの中心には「人の心」がある。単に利益を上げるのではなく、顧客、社員、パートナーと感謝でつながり、経営を継続・成長させていく。蓬台氏は、このような考えに共鳴し、ドラッカーを深く学ぶようになった。そして、2012年に開催されたドラッカー学会の浜松大会では実行委員長を務めた。何かマネジメントで行き詰った時には、折に触れてドラッカーの本を読むという。

都田建設のミッション・事業

ドラッカーは、企業のミッションを第一義的に考えたが、都田建設もミッションをもとに経営を行っている。都田建設のミッションは、単に家を設計し、建てるのではない。「一生に一度の住まいをつくるというかけがえのない過程を感動あふれる時間にしたい」「完成してからの人生を楽しむ、家族の絆を深める、家をそんな空間にしたい」。これが都田建設の想いである。

本物こそを提供し、心から幸せになるライフスタイル、生活の豊かさを伝えたい。都田建設は、ライフスタイル提案のブランドとして“DLoFre’s(ドロフィーズ)”を展開している。これは、夢(Dream)、愛(Love)、自由(Freedom)を組み合わせた造語であり、最後の“’s”は「仲間」を表している。単に、家を建てて売るだけではなく、リノベーション・リフォームも手がけ、お客様と長いお付き合いをする。家を建てていただいたお客様に、家具・雑貨・インテリア・エクステリアなどの提案をし、ドロフィーズ(夢・愛・自由・仲間)のライフスタイルを広げて行く。

社員は、お客様の家を建てる時、人生を楽しむ家をどのように作るか、お客様に生活価値提案をしながら一緒に考える。「家」は人生に一度か二度しかない買い物である。家を単に商品として「売る」のではなく、家作りそのものが「家族の一生の思い出になる」、そのような想いもまた商品にする。家ができあがり引き渡し式が終わった後に、施主の奥様から家族の前で、ご主人に対して感謝のプレゼントを渡し、手紙を読んで貰う。家族みんなが、この日の大切さを想い感動を共有する。都田建設は、そのような「感動の家作り」を行っている。

社員への想い

ドラッカーのマネジメントの中心には「人の心」がある。都田建設も、これを実践している。蓬台社長は、「社員は労働者ではなく、かけがえのない資産である」と考えている。社員1人1人のポテンシャル・アイディアを生かしていけば、大きなパワーが出る。社員が自ら楽しく仕事を行い、お客様と感謝でつながるためにはどうしたら良いか、蓬台社長は考えた。

かつて、都田建設の社員の中には「自分の仕事、図面書きや現場管理さえできれば良い」という意識の人がいた。お客様から「現場の対応が良くなかった」と言われたこともあった。そこで、「感動の家作り」を標榜することにした。お客様に、家作りの最中に涙を出すほど感動していただく。そして社員は、お客様に感動していただいたことを、翌朝に発表する。お客様本位の仕事は、人間力を磨くことにつながる。人は、「図面さえ書けば良い」という自我の殻を破り、利他の精神になった時、潜在力が輝き始める。これは、技術・知識・スキルの問題ではない。

人間力を磨くためには、基本ができていなければならない。まず、きちんと挨拶をすることからはじめた。そのために挨拶リーダーを作った。指摘できるリーダーを作ることが重要で、「指摘されて、自分に気づいて心を広げていく」そのような風土に変えようとした。そして、社風は着実に変化していった。

「感動」を売り物にするためには、まず自分たち自身が「感動体質」にならなければならない。そうした中で、蓬台社長が始めたのが、「バーベキュー」である。社員のみんなが、笑顔でひとつになれることを毎週やりたい。蓬台社長は、毎週木曜日の昼休みに、全員参加のバーベキューを行うようにした。社員が当番でメニューを決め、買出しを行い、60人分の材料を15,000円で買う。バーベキューは1時間でやりきる。バーベキューを行う時には、担当のリーダーだけは順番で決まっているが、互いの役割が決まっていない。社員は想いを1つにし、言われなくても自分の役割を考え、事柄の流れを予測しながら行動する。みんなで協力し合い、みんなで笑顔のランチをとる。

感動経営

お客様に対する「感動経営」を実践するために、良い行動を習慣化し学習していく仕組みも作った。目標管理の制度を取り入れ、社員が自分を見つめ、理想の状態をイメージし、チームの目標と個人の目標を考えるようにした。そして、1年間の目標を毎週の活動に落とし込む。バーベキューの前、木曜日の午前中に、自分の貢献すべき数字、できている目標と現実とのギャップを見て、自分で考える。9:00から12:00まで徹底的に考え、1週間にやるべきことを明確にする。
蓬台社長は、社員に対して、理念や人生観、目的やビジョンを、毎朝、毎週伝え続ける。年2回の勉強会でも伝える。また、1年間に4回行われる個別面談でも伝え続ける。

バーベキュー以外にも、ユニークなイベントがいろいろある。海がめ放流会やドロフィーズDAY、ご入居されたご家族への感謝訪問など。これらは地域に貢献するとともに、みんなが念を1つにする機会になっている。4. 社会貢献都田建設では、地域貢献、社会貢献にも力を入れている。地域の人々が「都田建設がいて嬉しい」という気持ちになってもらっている。そこで、売り上げの1部を浜松の孤児院に寄付をし、地域交流イベントの開催などを行ってきた。また、「地域の街を良くしたい」という想いにより、近くの休耕地や空家を安く借りてリノベーションをし、都田建設がドロフィーズ・キャンパスとして利用、街づくりにも貢献している。

最近では、近くの都田駅(無人駅舎)を、独自のデザインによって駅カフェへとリノベーションをし、天竜浜名湖鉄道からの依頼で、車両の1つをスローライフトレイン「レトロドロフィーズ」として、改装・提供した。そして、駅カフェのデザインでは、「2015年グッドデザイン賞」を受賞した。

共感の輪を広げたい

環境保全活動にも取り組んでいる。2010年には、エコアクションや使用電力100%グリーン電力化などにより、環境大臣賞で表彰された。先日には、都田建設の二酸化炭素を出さない取り組みが、国連機関に評価され、ナスカ気候行動ポータルウェブページに掲載された。

蓬台氏は、単に「家を建てて、それを売ればいい」という大手住宅会社に失望し、退職して自立の修行のために内山建築店に入社した。入社した時は、内山現会長、蓬台氏、パートの事務員の3人しかいなかったが、その会社は、地元に根ざして発展し、都田建設として今や社員60人の会社になった。蓬台氏は、今後について次のように言っている。「地元に貢献したい。地域を良くし、日本を良くしたい。ここに自分の事業を生かしていきたい。住まいづくりやものづくりを通して『愛、夢、自由、仲間』のライフスタイルを広めていきたい。人間を大事にすることはドラッカーにつながる。社員・顧客・地域社会・日本・全部がつながり、豊かに生きていく考え方、共感の輪を広げていきたい」

  • ドラッカー学会 Drucker Workshop