#056 ドラッカーを学ぶ会社と学ばない会社
国永秀男(コンサルタント、「ドラッカー塾」専任講師(株)ポートエム代表取締役)
ドラッカーにマネジメントの真髄がある
これまでいろいろな企業の中に入っていって、経営者や幹部、社員の方々と一緒に仕事をしてまいりました。
そのような仕事柄、経営コンサルタントという立場として、いろいろな提案をしていくことになるのですね。
たとえば、戦略上の提案を行ったり、次の方針の提案を行ったりといったことをよく行うのです。
そのようなとき、私自身、とても悩むのです。
本当にこれでいいのかどうか――。
クライアントのみなさまには申し訳ないのですが、やはり私は提案しながら悩むのです。
そのようなとき、私は提案内容について確信をもちたいと思い、いつも振り返っては読み返したのが、ドラッカー先生の本だったのです。
何か悩んで読み返してみて、「あ、これでよかったんだ」「これで提案していこう」などと、私の心にあるものを確認する意味で、ドラッカー先生のマネジメントの本にいつも助けられてきました。
コンサルタントとしての仕事の上でも助けられたのはもちろんですが、私個人の精神上もものすごく助けていただきました。
いろいろなマネジメントの勉強をこれまでもしてきたつもりなのですが、やはり最後に行きつくのはドラッカー先生のマネジメントなのです。
今にして思うと、ドラッカー先生のマネジメントが、マネジメントの真髄を学ぶうえでの最も近道だったのではないかと感じたりもしています。
きこりの話
いろいろな会社のコンサルタントとして仕事をしていると、マネジメントを学んでいる会社と学んでいない会社と両方があります。
マネジメントを学んでいる会社に伺って、討議をしていると、やはりよいアイデアや提案、戦略が出てくるのです。
一方で、マネジメントを学んでいない会社に伺うと、同じ努力をしているように見えるのに、なかなかよいアイデアが出て来なかったりというのが見えたりします。
そうすると、マネジメントを学んでいるということは、やはり大きなアドバンテージなのだなと感じるのです。
マネジメントを学ぶ重要性を本当に強く感じるのです。
こんな話があります。
昔あるところにきこりがいました。きこりはとても働き者で、毎日一生懸命たくさんの木を切っていました。
あるとき、お昼休みをしているところに、知り合いが近くを通りました。その人が、きこりの斧を見ると、毎日使うものですから、斧の刃がにぶくなっているのに気づきました。
その人はいいました。
「きこりさん、毎日一生懸命働いて木を切っていますね。斧を見ると刃が丸くなっています。研いだらどうですか?」
そう聞いたきこりは答えました。
「いや、いそがしくてそんな暇はない」
第三者から見ると、なんてばかなことをいうのだろうと思います。
でも当のきこりからすれば、一本でも多く木を切るのに一生懸命で、刃を研ぐ時間ももったいなく感じられているのです。
仕事の一部に包丁を研ぐことが入っているか
一方で調理人を考えてみると、毎日毎日料理をつくっています。
一日の仕事が終わった後に包丁を研いできちんとかたづけて、翌日を迎えると思うのです。翌日は研がれた包丁で、また料理がつくれるのです。
こんなふうに調理人の方は、仕事の一部に包丁を研ぐことが入っていると思うのです。
けれども、先ほどのきこりにとっては斧を研ぐことが、仕事の一部になっていなかったのです。
同じことを私たちに置き換えてみるとどうでしょうか。
とくに経営者や経営幹部の方の場合、マネジメント力があるかどうかがとても日々の仕事の中で問われます。マネジメント力のあるなしで、仕事の成果や生産性は変わってくると思います。
みなさん毎日毎日忙しい日々を送っていると思うのです。
そのなかで、マネジメントを学ぶ時間を私たちはとっているのでしょうか。
自分自身に置き換えたときに、先ほどのきこりを非難できるでしょうか。
きこりと同じように、毎日忙しいと、マネジメントを学ぶ時間はもったいない、そんな時間はとれないと思って、ついつい目の前の仕事で時間が過ぎていっているのではないでしょうか。
そうならないためには、私たちも仕事の一部にマネジメントを学ぶことを入れ込まなければならないと思うのです。
とくに組織の立場が上になればなるほどこのことはあてはまると思います。
ぜひ、ドラッカー先生のマネジメントを学ぶことを、ご自身の仕事の一部に取り入れていただければと思います。