「われわれにとっての成果は何か」
成果を明確に定義する
成果とは単一のものではない。たとえば樹木が健康かどうかは、果実を見ただけでは判断できない。葉や幹の様子はどうか、見えない土の中では根がどう生育しているのか。いくつもの視点が必要である。
企業の場合、樹木でいう果実に相当する「利益」というわかりやすい尺度がある。企業と利益のメカニズムは単純である。どんなに意味ある活動をしていても、利益をあげられなければ企業は存続できない。しかし、非営利組織の場合などは、利益に相当する明瞭な尺度は存在しない。
だからこそ、ドラッカーは「成果をはっきりさせよ」という。非営利組織こそ、日ごろから「成果とは何か」を考え抜き、明確に定義していく姿勢が求められる。
そのためにはどうしたらよいか。「2つの種類の成果を設定せよ」とドラッカーはいう。定性的な成果、定量的な成果である。
定性的な成果 〜イーライ・リリー物語〜
定性的な成果とは、質的なものである。たとえば活動が世の中に与えた変化を、物語として持つことである。
組織には、数値には換算不能な物語があるものだ。一例として、活動を始めたときの“神話”がある。どのような志でスタートしたか、当初の難局をどう乗り切ったか、倒産の危機を救ったのは何だったか……。こうした物語が組織の信念を表し、これを共有することが組織の絆となる。
アメリカで100年以上の歴史を持つ製薬会社イーライ・リリー社が好例である。
創業前、リリー氏は薬局の店主をしていた。あるとき、店先に小さな女の子が立っていた。彼女はおもむろに「おじちゃん、ミラクルをちょうだい」と言う。聞くと、彼女の母は末期癌で死の床にあった。心配でたまらず、ドア越しに聞き耳を立てていたところ、「もう助からない。ミラクルにすがるしかない」という医者の声を聞く。そして翌朝、なけなしの小遣いを握りしめてリリー氏の店に行き、「ミラクルをちょうだい」と言ったのだ。
「今は薬局で薬を売っているけれども、いつか本当にミラクルを起こせるような薬をつくりたい」
そんなリリー氏の思いから生まれたのが、イーライ・リリー社だった。同社は、そのような創業の物語を映像化した。物語はそのまま人々の心に飛び込み、熱を持ち、100年を経ても記憶され続けている。
定量的な成果 〜客観的な尺度〜
もう一つは、定量的な成果である。たとえば、活動の結果として社会に起きた変化を表す測定可能なデータであり、次のようなものである。
●美術の授業時間数と非行の減少の関係
●24時間電話受付による児童虐待事案数の減少
こうした客観的な尺度をもとにした定量的な成果は、定性的な成果より明確化しやすいだろう。
このように、「定性と定量、あるいは主観と客観をともに追求して、成果の本質に至れ」とドラッカーは助言する。