顧客を知るための手法

顧客の目線を探ることから始める

アメリカのケーブルテレビ会社の経営者ボブ・ビュフォードは、ドラッカーのコンサルティングを受けた一人である。ビュフォードは、ドラッカーに会う前に課題を与えられたという。次のことを漏らさずに書き、1週間以上前に郵送するようにとの指示だった。

●自社の状況
●問題
●機会
●これから望むもの

ドラッカーであっても、顧客の目線がどこにあるかを探ることからしか始まらない。相手が何に関心を持っているか、何を期待しているかを事前に知っておかなければならない。

相手が多数であっても同様である。ドラッカーは実業人の会合で講演する際に、主催者に対して次のような事前要請をしていたという。

●会合に出席する方々の人数、属性、関心領域などを詳細に教えてほしい。
●彼らが何を求めて自分の話を聞きにやってくるのか、わかるだけ教えてほしい。
●参加する企業の情報を教えてほしい。

顧客の目線を把握するために必要な事前情報を可能な限り集める。それが顧客とのコミュニケーションにおける基本行動である。良質な事前情報が、コミュニケーションの精度を高めてくれる。

現場に出向いて聞いてみる

顧客の目線を知るために、現場に出向いてみることも大切である。先のビュフォードはメガチャーチの組織者としても知られるが、その立ち上げにあたり、巨大教会の設立者として著名なハイベルズ師に話を聞きにいった。そのときのことを、次のように回想している。

「最初に行ったことが、一軒一軒をノックして回ることだった。数か月の間、週6日、日に8時間、痛む手でドアをノックし続け、たった一つの問いを投げかけた。『教会にはいっていらっしゃいますか?』」

答えが「YES」なら、お礼を言って次の扉をノックする。「NO」なら、重ねて聞く。「おそれ入りますが、行かない理由を伺ってもよろしいでしょうか?」。大半の答えが「NO」であり、うち7割ほどは教会への苦言を口にしたという。

ハイベルズ師は、彼らの苦言を整理してみた。第一が「何かというと献金を要求される」こと。第二が「何から何まで退屈で、何もかもが一緒」「自分に関わりのあるものがまったく見当たらない」ことだった。彼は、この苦言を起点に新しい教会をつくっていく。

心のストライクゾーンを見極める

次に紹介するのは、相手の「心のストライクゾーン」を見極める技術である。ドラッカーの盟友であるセブン&アイの名誉会長・伊藤雅俊氏が教えてくれた方法だ。

伊藤氏は何かの会合があると、その前に出席者を徹底的に調べるという。たとえば、次のようなことだ。

●年齢はいくつか。
●どんな青年時代を過ごしてきたか。
●青年時代はどんな時代背景だったか。
●何に関心があって、これまでどんな活動をしてきたか。

とくに着目に値するのは、相手の青年時代の時代背景である。たとえば、流行歌、流行語、ベストセラーなどである。

物理学者のアインシュタインは、「人間の思想は17歳のときに偶然手にした偏見の副産物である」と述べた。青年時代にフォーカスしてみると、その人物の実像が浮かび上がってくることも多い。

 

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