マーケティングと販売活動
起点の違いによる大きな差
ドラッカーの『マネジメント』の書には、「マーケティングと販売活動の違いは何か」という問いが出てくる。その違いは、起点である。
販売活動とは、「自分たちの売りたいもの」からスタートする。すなわち起点が「自分」である。対して、マーケティングとは、「顧客は何を求めているか」からスタートする。起点は「顧客」である。その違いが大きな差を生み出す。
誤った販売強化策
「自分たちの売りたいもの」からスタートすると、苦労することが多い。たとえば、ある商品が最近売れなくなってきたとして、どこに原因を求めるか。
「販売の努力や工夫が足りないからだ」と考えてしまわないだろうか。売れない時期にあっても、なかには卓越した販売スキルで売ってしまう人もいるかもしれない。それを見て、「もっと客先を回れ。電話をかけろ。気合いを入れろ」などと叱咤激励していないだろうか。
そもそも扱っている商品自体、今の顧客からは求められていないかもしれない。そうであれば、いくら販売強化をしたところで、根本的な解決にはならないはずである。
売れない状況において無理な販売強化策をとれば、現場の意欲は削がれていくに違いない。「自分に実力がない」「この仕事に向いていない」などと思い悩んで、辞めてしまうことも多くなるはずだ。こうした職場では、人が定着しないのが常態になるだろう。
顧客のところに行って聞く
一方、「マーケティング」の考え方を実践する会社は、ある商品が最近売れなくなってきたときに、どこに原因を求めるか。
言うまでもなく、マーケティングの原点に戻ってくるはずである。扱っている商品やサービスは、本当に顧客が求めているものなのかどうか、今の顧客が求めているものなのかどうか。あらためて顧客のニーズを確認し、商品やサービスに反映させていく取り組みがなされるに違いない。
「顧客のことは、自分たちが誰よりもよく知っている」と思い込んでしまうと、実際に外に出ない、顧客の声も聞かないといったことになりかねない。「顧客の求める価値は、顧客自身がいちばんよく知っている」と考えるべきである。
とくに経営者は、外に出て、見て、聞くことを仕事の中に組み込まなければならない。経営者の頭の中に、自身が現場にいたころの顧客や市場についての記憶が滞留していると、そのイメージをもとに意思決定してしまうということが起こりうる。
意思決定は、今の現実を見て行わなければならない。ドラッカーが「経営者ほど意識して外に出て、現在の生きた顧客の声を聞かなければならない」と強調するのはそのためである。