ドラッカーの成長回路「フィードバック分析」
「汝自身を知れ」
「フィードバック」の仕組みを、自分自身に適用するとどうなるか。これこそ、ドラッカーを知の巨人にまで育て上げた究極のセルフ・マネジメントにほかならない。
着眼すべきは、自らの「強み」である。
ドラッカーによれば、人には生まれながらにして、並み外れてうまくできることがあるという。彼はそれを「強み」と呼ぶ。単に得意というより、ほとんど生物的に持っている卓越の源である。
私たちは立派な宝箱を背負いながら、なかなかそれに気づけない。あるいは鍵がないばかりに、せっかくの宝箱が重荷にしかなっていない。
どうすれば自らの「強み」を知ることができるのか。「フィードバック分析」である。ドラッカー自身が、自らに課していた方法だ。彼は次のように述べている。
「強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。9か月後、1年後に、その期待と実際の結果を照合する。私自身、これを50年続けている。そのたびに驚かされている。これを行うならば誰もが同じように驚かされる」(『プロフェッショナルの条件』)
書きとめる、観察する
「フィードバック分析」の要は、書きとめること、観察することである。まさにドラッカー自身が行ったことである。
書きとめることは、意外と軽視しがちだ。しかし、人は書くことで内面を言語化しなければ、自らが何を考えているのかさえまともに知ることはできない。そのうえ、書いたことは、今の自分の身に起こっていることの意味を後で振り返るための素材にもなる。
また、日々の生活のなかで「強み」に気づくために、自分に向けて投げかけられた言葉などをたんたんと書きとめておくといい。最もシンプルな方法が日記の活用である。
一方、観察においてなすべきは、客観的な「セルフ・モニタリング」の習慣化である。自分に向けて投げかけられた言葉のなかには、耳触りのよくない指摘もあるだろう。それにも一喜一憂することなく、自分を高めるための有益な情報として受け止めるスタンスが大切だ。そうした言葉に、自分自身に出会うチャンスが隠れている。
私たちはしばしば観察対象が未来にどうなるかを推測してしまう。しかし人間の認識能力には限界がある。推測には、過大評価や過小評価がつきまとう。ドラッカーは「なすべきことは推測ではなく、観察である」ことを強調する。虚心坦懐に「今・ここ」を観察するのみであるという。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。そして、日々起こっていることを客観的に観察し、それをまた書きとめておく。ふさわしい時間を経て振り返ることに意味がある。