「われわれの顧客は誰か」

誰を満足させなければならないか

「顧客」とは、製品やサービスに対価を払う消費者のことだけを指すのではない。いかなる組織にも顧客がいる。教会では信者が顧客であり、学校では生徒が顧客である。病院では患者が顧客、ケースワーカーでは貧困家庭が顧客である。

顧客とは、端的にいえば組織の成果を判定する究極の尺度である。「あなたの組織が成果をあげるには、誰を満足させなければならないか」。その問いへの答えが、顧客は誰かを教えるとドラッカーはいう。

ここでいう顧客とは、経済的な概念ではなく、社会的な概念である。

つまるところ、組織はそれ自体では何も生み出すことがない。自らにとっての顧客を明らかにし、外部の世界に架橋を行わない限り、組織は潜在的な力を持つにすぎない。手紙は書かれても投函されなければ、メッセージとしての力を持たないのと同じである。

2種類の顧客

非営利組織の顧客には2種類ある。

一方は、活動対象としての顧客である。外部の世界にいて、組織の活動によって生活と人生を変えられる人たちである。

第1の問いは「ミッション」だった。ミッションは内的な動因であり、明確な言語化を必要とする。そのミッションを行動に転換し、具体的な成果につなげるためには、外部の世界への架橋が必要となる。その際、活動対象としての顧客を絞らなければならないとドラッカーはいう。

もう一方は、パートナーとしての顧客である。従業員、ボランティアスタッフ、寄付者、委託先など、自ら活動することで満足を得る人々である。

組織が提供するものに「NO」と言える立場でもあり、気に入らないことがあれば、さっさと辞めてしまえる立場でもある。自発性を基礎とする非営利組織において、そのようなパートナーとしての顧客が満足しなければ、成果をあげることはできない。

それゆえ、非営利組織のマネジメントにあっては、つい内部の「組織の論理」を優先したくなる。ドラッカーは、そこに硬く鋭い釘を一本刺す。

「パートナーとしての顧客を活動対象としての顧客と同一視したくなるのは人情である。しかし成果をあげるには、焦点はあくまでも活動対象としての顧客に絞らなければならない」(『もっとも重要な5つの質問』)

顧客は変化する

顧客は千変万化である。そのつど創造されたり刷新されたり、消滅したり形を変えたりする。

積極的に動いて顧客を開拓しなければならない局面もあれば、顧客のニーズが満たされて活動をやめなければならない局面もあるだろう。

あるいは、何かの行動がまったく異なる顧客のニーズを顕在化させることもある。「いかに検討した後でも、顧客には驚かされることがある」とドラッカーはいう。

 

< prev   next >

  • ドラッカー学会 Drucker Workshop