企業活動と「フィードバック」
8つの領域で具体的な目標を設定
ドラッカーの考え方において、大切なのは他者との競争ではない。自らの「強み」を発揮させていくことである。
そのためのポイントが、目標である。しかも具体的な目標である。
ドラッカーは、8つの領域で目標を設定せよという。複数の領域で目標を設定し、相互のバランスを図りながら同時的かつ全体的に追求していく。この考え方が、後にキャプランとノートンが体系化した「バランススコアカード」のルーツとなった。
では、8つの領域とはいかなるものか。
1)マーケティング
2)イノベーション
3)人的資源
4)資金
5)物的資源
6)生産性
7)社会的責任
8)利益(条件としての利益)
ここでドラッカーらしいのが、利益を「条件」として挙げていることである。利益を「目標」としてとらえていない。人間に置き換えて考えてみると、衣食住は「生存の条件」ではあっても、「生きる目標」にはなりえない。
組織においても同じである。利益は条件である。利益がなければ組織は存続できないが、利益を目標に組織が存在するわけではない。しかも利益は存続の条件というのみでなく、明日さらによい事業を行うための条件でもある。
目標と条件をバランスさせる
これらの目標と条件をバランスさせなければならない。部分の最適は不可である。また、利益だけに焦点を当てる経営は、ほかの7つの領域を腐らせ、長期的には破綻する。
こうした異質な要因同士をバランスさせるのが、マネジメントの機能である。そして全体としての最適化が図れたときに、「富の創出能力」が最大化されることになる。
では、それぞれの目標を考えるうえでのポイントは何か。あらゆる組織にとって最も重要なことは、「自らの事業は何か」と問うことであるという。この問いに答えを与えるのは、見かけほど簡単ではない。
いかなる組織であれ、内部の思惑だけで組織のすべてが決定されることはない。究極的には、「自らの事業は何か」を決めるのは外部にいる顧客であるとドラッカーは言う。顧客にとっての価値が、事業が何であるかを決める。
それでは、顧客を知るための方法は何か。外へ出て、見て、聞くことである。重要な情報は、組織の内部ではなく、外部にある。
複数の時間軸を持つ
ドラッカーは時間軸を意識すべきともいう。異なる時間軸の要因をどうマネジメントすべきかがポイントである。
たとえば、今日1日の目標と今週1週間の目標は、まったく次元を異にする。今年1年の目標、10年後の目標、さらには人生全体の目標も、それぞれ質的に異なるものである。100メートル走とマラソンが質的に異なるのに似ている。
また、目標は日々変化していくものである。創業時の目標、拡大期の目標、安定期の目標がすべて同じであるはずがない。人も組織も、その時々で成り立ちを変えていく。
目標の中には長く生き続けるものもある。しかし永遠のものなどありえない。やがては陳腐化する。懸命に真面目に経営しているにもかかわらず、地盤沈下していくことがある。目標が陳腐化していないかを常に点検しなければならない。
目標管理においては、逆境を想定しておくのがよい。家を建てるにも悪天候を想定して建てなければならないという。逆境こそが常態だと考えて、順風のときにこそ徹底的に考えておかなければならない。