流通チャネルの重要性
流通チャネルが製品を決定する
ドラッカーは、「流通チャネルは、製品そのものよりも重要なことが少なくない」と意味深長な発言をしている。現実に、市場に関わる問題の多くは流通チャネルに関わるものである。
製品は企業活動の一部である。しかし、流通チャネルは企業の一部ではない。社会という外なる世界との接点であって、事業の外延である。
流通チャネルは、顧客と製造者を結ぶものである。製品は、流通チャネルを通じて顧客に選好され、購入されたとき、はじめて価値に変換される。いかに有力な製品といえども、流通チャネルにぶら下がっているだけの有象無象に過ぎないともいえる。
さらなる問題は、流通チャネルは企業がコントロールできない点にある。つまり流通チャネルは与件である。製品をつくる企業のほうが、これに合わせなければならない。
おおざっぱにいえば、流通チャネルが製品を決定する。未来における産業の帰趨は、いかに新たな流通チャネルにふさわしい製品を創造できるかにかかっているといっても過言ではない。
顧客としての流通チャネル
流通チャネルは、単なる取引先ではない。顧客でもある。製品や販売についての考え方が、顧客としての流通チャネルに適合していなければ、顧客としての流通チャネルに買ってもらえない。
たとえば書店とコンビニでは、消費者のニーズがまったく異なるのは当然である。大衆向けのコンテンツを手掛ける出版社は、流通チャネルがビジネスそのものであることをよく知っている。一方、知的に洗練された書物を手掛けながら、そうした事実を軽視している出版社もある。
市場もまた、流通チャネルと同様の配慮が必要である。市場は顧客そのものであるとも考えられる。ときには、生産者側にとって好ましくない現実をも明らかにしてくれる。
いかに顧客に到達するか
考えるべきは、顧客への到達のしかたでである。「顧客はどこにいるか」「いかに顧客に到達するか」「顧客に到達するルートはどのようなものか」。これは顧客としての流通チャネルそのものである。
たとえば、一般の個人宅のセキュリティを提供する企業にとって、顧客はどのような人々だろうか。富裕層かそれに近い人々と考えてよいだろう。では、そのような人たちへ到達するルート、いわば流通チャネルはどんなものだろうか。
あるセキュリティ企業は、外車のディーラーに目をつけたという。外車を購入する人々は、比較的裕福なことが多い。セキュリティにも関心が高いことが想像される。
そのような考え方で、外車のディーラーの協力を得ながら、セキュリティのニーズを探していくということが行われたという。これは「顧客はどこにいるか」「いかに顧客に到達するか」という問いへの答えでもある。
さらに大切なのは、「顧客から自分たちがどう見えているか」である。顧客の側からどう見えているか、反対から見てみる。顧客から自分たちに到達しやすいルートがあるかどうか。
インターネットの影響が巨大なのはまさにそこであろう。ネットの世界は、はかりしれず巨大な流通チャネルである。それは企業からという以上に、顧客から到達しやすいルートができたことを意味する。