P・F・ドラッカー 理想企業を求めて
E・イーダスハイム著、上田惇生訳/ダイヤモンド社
ドラッカーの使用法
『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』などの著書がある名コンサルタントによる、ドラッカーについての解説書です。知の巨人ドラッカーは、多くの経営者やリーダーたちにどのように受け入れられていったのか。豊富なエピソードや意外な一面を紹介しながら、ビジネスへの影響にとどまらず、人々に思考の変容をもたらしたそのプロセスを感動的に描き切った一冊です。
いわば「ドラッカーの現代的使用法」が豊富な事例とともに示されています。ドラッカー固有の思考を身につけるにあたっての心得を得るにあたり、ビジネス、ボランティア、地域など、実践的なヒント満載のガイダンスにもなっています。
本書には、ドラッカーの生の声で満ち溢れています。著者のイーダスハイムは、ドラッカー最晩年の肉声を主たる材料として、彼が生涯において成し遂げた偉業の再現に挑んでいます。ドラッカーを師と仰ぎ人生を変えた人々に丹念に取材し、その人となり、今日に至る理念を明らかにしようとしています。
人を介してドラッカー的思考の鉱脈を探索し、ひたすら「見る人」としての彼、「真摯に生きる人」としての彼を追求し、ドラッカーの中に脈打つ生きた思想の所在を読み取ろうとしています。その思索の軌跡へと読む者を導く、案内の書ともなっています。
感動的な事例を一つ。アルコアというアルミニウム会社の労災ゼロ宣言です。アルミニウム精錬会社は労災が頻発する職場です。そのなかで、CEOのオニールが就任するや労災ゼロを公に表明します。すでに同社の労災発生率は全米平均の半分以下だったといいます。それでも、「社会からの大切な預かりものである従業員を仕事が原因で怪我をさせるわけにはいかない」として、公約に踏み切ったのでした。やがて労災の件数が減少し、さらには生産性が向上し業績が高まっていきます。
「人を大切にすることと業績との間にいかなる因果関係があったかはわからない。ただそのようなことが事実として起こった、それだけで十分だ」とドラッカーは述べています。名コンサルタントにして名教師ドラッカーの実像を斬新な視点から明らかにしています。彼に学ぼうとするすべての人々にとって役立つ一冊といえるでしょう。