イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】
上田惇生編訳/ダイヤモンド社
変化を味方につけるための百科全書
新しい価値を生み出す知的方法を、ドラッカーはイノベーションとして提示しました。この創造的な知とは何なのか。ドラッカーによる1985年の大著をイノベーション7つの種を中心に緻密かつコンパクトに、わかりやすくまとめられたのが本書です。
この本を読むと、いかにイノベーションというものが現代人の持つべき基礎的素養であるかがわかります。その第一は、イノベーションは決してノーベル賞級の大発明のようなものではなく、ごくささやかな営みであるということです。閉塞を極め、緊急事態下にあってこそ、新時代を担いうる知性を万人がもたなければなりません。
ドラッカーは、イノベーションをおおげさな活動とは考えません。基本的な仕事としてとらえています。組織や方法によって行われるべき仕事です。日常のざわめきに意味を与え、変化を利用する豊富な事例によって、そのみずみずしいイノベーションの本質を伝えています。
同時に、もはや死にかけている、劣化・形骸化した活動を体系的に廃棄していく行動を重視し、世の中の継続と変革のせめぎ合いのなかで新たな時代をどう創造していくか、その枠組みを親切に説明してくれます。変化し続けることはイノベーションをめぐる活力状況であり、葛藤を抱え込むときに働く知性のきらめきを本書は巧みにプロットとして描き切っています。
イノベーションは何か特別な人々が行う特別な活動と信じてしまっていないでしょうか。未来を創るのはどこかにいる偉い人だと思い込んではいないでしょうか。ドラッカーは未来を創造するイノベーターは私やあなたのようなふつうの人々なのだと語っています。それは一人ひとりが変転を極める現実の中で生き延びるための心得であり、姿勢なのだ。ドラッカーはそう語りかけているように私には思えてきます。