非営利組織の経営
上田惇生訳/ダイヤモンド社
非営利のほうが高度なマネジメントを要求する
NPOや非営利組織が注目を集める前から、ドラッカーは教会や病院、NPOへの強い関心をもっていました。マネジメントは、基本にある多元的な人と社会への確かな理解があってこそ意味をもつことが、切実に伺い知ることができます。多彩な評論や対談、インタヴューなど、繰り広げられる豊かな対話は芳醇な香りに満ちており、文明観察者ドラッカーによる多様性に満ちた世界への深い愛情もまた行間からひしひしと伝わってきます。
社会とは誰にとっても一見自明のものです。事実私たちは社会の中に生まれて、社会の中に死んでいきます。しかし、厳密に観察するならば、社会とは当然に成立するものではないとドラッカーは考えました。生物の中で働く細胞のように、企業と同様に、多様な非営利組織を通して、社会生態の本質解明に迫っていくのが本書です。
事実、非営利組織の歴史は企業などよりもずっと古く、日本においても、寺社や学校などそれぞれの時代と文化を反映した社会の多様性の源たり続けています。ドラッカーが本書を世に問うてから、多くの人々が非営利組織の本質と価値に気づき、社会への認識構造にも大きな変化をもたらしています。
社会成立のための土壌をつくる非営利組織はどのようにマネジメントされるべきなのか。現在も、大学、病院、教会など多くの非営利組織関係者が、実践思想の糧を求め続けている本書は、現代において本当に必要な組織の実像を目の当たりに見せてくれるところがあります。
マネジメントについて独自の見解を織り込み、しかも実践活動に指針を与える異色の経営書ではありますが、その多様な関心の底に一貫して流れるものは、健全な社会の成立への執拗なまでの追求心でした。非営利組織論であるにもかかわらず、マネジメント成立の筋道が克明にたどられ、またダイナミックな展開をとることから、企業経営者にも人気がある一冊です。