マネジメント【エッセンシャル版】

上田惇生編訳/ダイヤモンド社

組織に革命を起こす一冊


ドラッカーを形容する最もポピュラーな言い回しの一つに「マネジメントの父」があります。まさに、全業績のなかのど真ん中を射抜くのが本書です。今なお、経営をはじめとする人間社会の奥にある本質を見極めるうえで最高の指南を与えてくれる名著でもあります。

マネジメントという語はあまりにも多用され過ぎて、かつての輝きを失い、手垢にまみれた感もあります。しかし、それは現代もなお新しい知識社会において刷新され、最高の価値を付与すべき知的体系であることが本書を読み直すとありありと見えてきます。

原書で800頁に及ぶ大著のエッセンスを克明に抽出し、それが経営のための体系的方法であるばかりでなく、時代を創造するダイナミズムを明確に宣言した「展望の書」であることを明らかにしています。

その一つに、マネジメントの基本的な問題意識があります。どうすれば組織を活用して成果をあげうるか。現代組織のマネジメントに必要とされる考え方は次の三点に求められています。

①自らの組織に特有の使命を果たす

②仕事を通じて働く人を生かす

③社会的責任を果たす

言われてみれば何ということはないのですが、まさにこの三つの条件が、時代の最先端をも説明する普遍性を持っているのです。
そのすごさは、企業をはるかに超えて、現代のニーズを満たすのに、医療、福祉、教育、NPO、NGOまで社会的課題のすべてに適用可能なアプローチとして構想する点にも表れています。現代は高度な情報社会であり、ともすれば情報の洪水に押し流され、それを有効に活用する知恵にまで思いが及んでいないようにも見えます。ドラッカーのマネジメントは、人と社会を原点に置き、人々が幸福に生きることとは何かを原点に立ち返って捉え直そうとしています。

難解な学術用語ではなく、平易でありながらはっとさせられる言葉を使い、しかもマネジメントを分割された知識としてではなく、全体として理解するための自覚的かつ真摯な配慮がなされています。グローバル企業からプロフェッショナル人材の処遇など、現代のマネジメントに要請される課題までもがあますところなく視野に収められており、原書が1970年代初に書かれたのが信じられない気持ちになります。

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