ネクスト・ソサエティ
上田惇生訳/ダイヤモンド社
今生きる世界を正確にマッピングする
ポストモダンの認識に光を当て、複雑な文明社会の方向性を明らかにした本書は、ドラッカー最晩年の壮大な思索について原点にまで立ち戻り克明に開示しています。次なる社会、ネクスト・ソサエティについて、ネットや知識なども視野に入れながら、帰趨を鋭く読み解き、21世紀社会の展望をいきいきと示しています。
もちろん21世紀の全容は、その歴史的展開の巨大さゆえにいまだ明らかになっていません。しかし、人類に多くの資と悲惨をもたらした過酷な20世紀を生き抜いた観察者ドラッカーは、21世紀の動向を縦横無尽に思索し、「それは経済の時代ではなく、社会の時代である」との結論に到達します。今日にいたって、特に示唆的です。
ドラッカーの見るところでは、ネクスト・ソサエティでは三つの特徴が見てとれるといいます。第一に境界のない社会であること、第二に上方への移動が自由な社会であること、第三に成功と失敗が併存する社会、すなわち高度に競争的な社会であることです。個が窒息させられた20世紀とはうって変わって、21世紀は個がいきいきと活躍できる時代になるというのです。しかも高度な知識社会であるために、マネジメントの持つ力はいっそう高まる時代になっていきます。
21世紀はイデオロギーに呪縛された空虚な死の時代ではありません。個と知識から放射されるエネルギーが多様に作用し合う、実に多彩で創造的な時代になります。その中でこそ、真の人間らしさをその全体性においてとらえ直し、近代合理主義を超克しつつ、新たな文明のあり方への問いかけをなす書物でもあります。
出版から20年近くが経過しましたが、おそらく今手にとって読むならば、多くがはっとさせられるはずです。ひやりと胸を衝く驚きがあります。彼が予見したことの少なからざるものが、現実になりつつあるからです。情報化の波が押し寄せ、ビッグデータやAIが普及し、さらに気候変動の脅威が高まりつつある今日、未来社会と人間の生き方を考えるうえで、逸することのできない名著と言ってよいでしょう。