はじめに

 

戦争と革命の20世紀が終わって、すでに20年以上がたとうとしています。その間、リーマン・ショックがあり、今次のコロナがあり、世界は大きくその航跡を変えようとしています。

現代はもはや変化を常態とし、知識に価値を与える時代です。しかし、資本主義が根本的な意味を変えつつあるにしても、その先の展望が描き切れていないのが実情です。むしろ、システムの変化から個が置き去りにされ、生の無力感が瀰漫する時代になりつつあるようにも見えます。

そんな中で、「ドラッカーについて学びたい」、そう思う方はたくさんいます。彼は社会の中で人間が人間らしく生きる方法を考え抜いた思想家であったためです。あるいは、この世界がどこからきてどこへ向かいつつあるかを真摯に問い続けた警世家でもあったためです。

ただし、問題は、範囲があまりにも広過ぎて、どこから手をつけたらいいのかわからない――。ドラッカーについて書かれた本も山ほどあるし、ドラッカーの門をくぐる方なら誰もが直面する悩みです。誰もが門の前で立ち尽くしているのが実状なのです。

「Books」は門の前に掲げられる案内板です。ドラッカーについて知りたい方向けに、ふさわしい本をご紹介したいと思うのですが、その前に案内板の第一の役割は、「自身が今いる場所」を示すことにあります。ご自分の立ち位置を意識しながら、果てしなき知の世界を探訪する道案内にしていただければと願っています。

一冊でも手に入れてみて、肩の力を抜いて、心を開いて、老賢者ドラッカーに人生相談するくらいの気持ちでページをめくってみてください。心ゆくまで、人生や仕事の悩みを打ち明けてみて下さい。その中で、ドラッカー特有の効能にも気をとめていただきたいと思います。「行動」に関わるということです。

彼はクライアントによく言っていました。「私のコンサルティングを受けて、明日具体的な行動がどう変わったかに関心がある」。最初から高度な知識を持つことが重視されるわけではありません。知識や方法論などは後からいくらでも身につきます。

大切なのは、考え方や姿勢です。とくに彼は人として最も大切な姿勢を「真摯さ」と呼び、大切にしていました。真摯ささえあれば、飛び抜けた才能に恵まれなくとも、誰であってもプロとして大成することが十分可能であると考えていました。

明日を変えるためには、今日何をなすかが意味を持ちます。そのときに大切なのが――いかに遠回りに見えようとも――考え方であり姿勢なのです。新しい時代は新しい思想とともに再出発しなければなりません。ドラッカーは古くて新しい思想家です。彼についての著作から吹き来る新風に心ゆくまで身を浸し、未来への創造力を解き放っていただきたいと願っています。

 

  • ドラッカー学会 Drucker Workshop