傍観者の時代

上田惇生訳/ダイヤモンド社

生きた時代にふれたい方へ

いわばドラッカー著作の「謎解き」本です。ドラッカー著作のもつダイナミズムと魅力、その光と闇を一貫して観察者の視点で展開する、ドラッカー理解のための基本書でもあります。戦争と革命の20世紀を生き抜き、その渦中でマネジメント、目標管理、分権制、知識社会等の新概念を続々と生み出した背景に何があったのでしょうか。

ドラッカーはどのように20世紀の舞台を生きたか。また同時代の最高の個性と響き合ってきたか。その「舞台裏」を実に鮮やかに伝えてくれます。フロイト、キッシンジャー、ポランニー、ケインズ、スローンなど、20世紀を彩る多様な人々。読み手は時代をさかのぼって、傍観者の眼からそれぞれの場面に立ち会うことになります。

後に彼は「私のマネジメントへの関心は企業経営に対するものではなく、第一次大戦後の文明の崩壊を端緒としていた」と述べています。彼はあまりマネジメントの関係では自身の来歴を語りませんでした。しかし、本書は例外です。学校嫌いだった少年時代。日ごとに濃くなる戦争とファシズムの影の中での就学。職業生活、世界恐慌を越えて、イギリス、アメリカでの交流。

「強みを生かせ」というマネジメント原則の基本は、小学校時代の二人の教師に負っています。組織を外部から見るように経営せよとのメッセージはロンドン時代のヘンリーおじさんからの教えであったことがわかります。彼の遭遇する原体験は、マネジメントの原型となる考え方が潜んでいるのです。

後年の主張との接点から読めば、いっそうドラッカーのマネジメントについて新しい視点が育まれることでしょう。それはドラッカー自身による自らの精神的な出自をたどる旅でした。折々出会った人との回想を交え、「戦争と革命」の20世紀を生き抜いた魂の漂泊の記録。ドラッカーの世界のいちばん深いところを知りたくなったとき、手にとってみてほしい一冊です。

  • ドラッカー学会 Drucker Workshop