予期せぬ成功
もっとも易しく、もっとも成功に近いイノベーション
ドラッカーは、膨大な数のケースを集めて観察し、理論と現実をフィードバックする方法をとった。観察の結果得られた洞察が、「イノベーションの機会は、暴風雨のようにではなく、そよ風のように来て去る」だった。
イノベーションはそよ風――。果たしてどのような意味なのか。そよ風とは変化の兆候を指す比喩であろう。ここがドラッカーのイノベーション論の導入部となる。
イノベーションのなかでももっとも易しく、もっとも成功に近い第一のものが、「予期せぬ成功」であると彼は言う。それは微風でありながら、本格的な季節の到来を告げ知らせる。原語で「unexpected results」という。予測できない成果あるいは「期待されていなかった成果」である。
逆に予期しうることのなかに機会はない。自らが予期することは他人も予期している。だが、幸いにというべきか、この世の中は変事や不測に満ちている。たとえば、手元に新聞記事があれば一瞥してほしい。一面トップの文言さえ、一週間前はおろか前日にさえ予測していた者など誰もいないはずである。
時間を機会に割く
予期せぬことを機会と見なすとどんなことでも機会に転換できてしまう。人は明日何が起こるか知らない。自分の髪の毛ひとすじさえコントロールできない。誰も知らない、コントロールできないのは嘆くべきことではない。むしろ慶賀すべきアドバンテージである。出来事の意味の第一解釈権が自らにゆだねられていることを意味するからだ。
あえて言えば「想定外」の事件がビジネスの種となる。むしろ想定外の変化こそがビジネスの「主食」というべきである。端的に言えば想像もつかなかったことに、ため息をつくか、しめたと思うかの違いにすぎない。
では、「予期せぬ成功」のために何を行うべきなのか。まず「予期せぬこと」「期待していなかったこと」はすべて徹底的に調べることであるとドラッカーは言う。そして、必ず報告する仕組みをつくることである。日常の業務のなかで、問題を列挙していた月例報告の第一ページの前に、成功を列挙したページをつけることだ。問題に費やしていたと同じ時間、あるいは、それ以上の時間をそれらの成功の新展開に割く。それこそが、ピンチをチャンスに変える究極の方法である。